全3842文字
PR

 カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)に向けて、藻類の一種であるミドリムシ(学名:ユーグレナ)を使った「ミドリムシ樹脂」の研究開発が加速し始めた。2021年3月、バイオベンチャーのユーグレナがセイコーエプソンやNECなど10社以上と組み協議体「パラレジンジャパンコンソーシアム」を設立。培養液や原料、中間材の規格化を目指し、30年に年間20万t(トン)規模を供給したい考えだ。単体では50μmと微細なミドリムシ。樹脂に姿を変えて存在感を示せるか。

ミドリムシ由来の多糖類

 ユーグレナなどが開発するミドリムシ樹脂「パラレジン(Pararesin)」は、ミドリムシを次のように活用する。まずミドリムシから、特有成分「パラミロン(Paramylon)」を得る。パラミロンは、β-1,3グルカンから成る多糖類*1。たんぱく質の細胞膜を薬液などで溶かし、水洗いすることで白い粉状で沈殿したパラミロンを回収。その後、パラミロンを誘導体化してパラレジンに変える。

*1 多糖類:ブドウ糖などの単糖分子が多数重合した物質の総称。デンプンやセルロースなどがある。生物による生合成産物として得られ、エネルギーの貯蔵物質、細胞壁や外皮などの構造物質として生物界に広く存在する。食品や工業製品などにも利用されている。

ミドリムシ樹脂の原料と中間材、成形後の樹脂製品。(a)ミドリムシから取り出した特有成分「パラミロン(Paramylon)」、(b)パラミロンを誘導体化したミドリムシ樹脂「パラレジン(Pararesin)」、(c)パラレジンの成形品。(撮影:日経クロステック)
ミドリムシ樹脂の原料と中間材、成形後の樹脂製品。(a)ミドリムシから取り出した特有成分「パラミロン(Paramylon)」、(b)パラミロンを誘導体化したミドリムシ樹脂「パラレジン(Pararesin)」、(c)パラレジンの成形品。(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 こうして造ったパラレジンの強度や耐熱性といった物性は現状、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂に近いという。金型内部での熱溶解時の流動性も高く、小さく複雑な形の部品にも成形しやすい。

 試作したペレット状のパラレジンは半透明の褐色をしているが、精製度合いによっては、透明に近い色味も出せる。配合する顔料を調整すれば一般的な樹脂同様に色を変えられる。「加工方法によっては、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)の物性に近いものの成形も期待できる」(ユーグレナ)とする。

 ミドリムシは光合成を行う、いわゆるバイオマスなのでパラレジンはバイオマスプラスチックである。パラレジン1tを石油由来のプラスチック同量と代替すれば、約1.86tの二酸化炭素(CO2)削減効果が得られる。

 現状は他のバイオマスプラスチックと同水準だが、今後さらなるCO2削減効果も見込めるとして研究開発を続けていく。研究が進めば、誘導体化時の調整によっては、微生物が分解可能な生分解性を持たせられるという。

「日本連合」で世界展開も

 今回、協議体を設立した各社はパラレジンがカーボンニュートラルに貢献できる余地は大きいとみて、協業による早期の大量生産実現を狙いたい考えだ。高分子化学が専門の東京大学大学院農学生命科学研究科教授の岩田忠久氏と共同でパラレジンの技術開発や普及推進を狙う。

 これまで、ミドリムシ樹脂の研究開発は各企業が独自に進めることが多く、原料の生産1つ見ても、手法や材料の性質が違っていた。同協議体では、培養液、パラミロン、パラレジンの性質を規格化して一定範囲内にそろえることで、企業間の差を埋める。同一の原料を協議体内の他企業に供給しやすくなる。量産効果により価格を下げやすい。

各社が独自に取り組んでいた研究開発を工程ごとに規格化。特性をそろえた培養液、パラミロン、パラレジンなどを生産しやすくする。図は従来の研究開発と協議体での研究開発のイメージ比較。(出所:日経クロステックが作成)
各社が独自に取り組んでいた研究開発を工程ごとに規格化。特性をそろえた培養液、パラミロン、パラレジンなどを生産しやすくする。図は従来の研究開発と協議体での研究開発のイメージ比較。(出所:日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 協議体にはユーグレナ、セイコーエプソン、NECの3社に加えて、縁舞(埼玉県志木市)やKISCO(大阪市)、KOBASHI HOLDINGS(岡山市)、佐賀市、新菱冷熱工業(東京・新宿)、日東電工、日本紙パルプ商事、バイオポリ上越(新潟県上越市)、LIXIL、リコーテクノロジーズ(神奈川県海老名市)などが参画する。同分野の研究開発において世界最先端を走る「日本連合」が誕生した。

 今後は、広く協議体への参加企業・団体を募る。3月の設立からすでに10社規模で問い合わせが届いており、仮に全社が参画を決めれば協議体は20社規模に拡大する。遅くとも30年までには規格化を実現し、年間20万tという大量生産体制を整える。脱炭素に貢献する日本発の技術として海外展開も視野に入れる。

生産工程を3分割して規格化

 同協議体では、ミドリムシ樹脂の生産工程を大きく3領域に分けて規格化に取り組む。まず、ミドリムシを生育させる培養液の領域。「古紙等廃棄物の糖化プロセス検討」との名称でセイコーエプソンが中心となり研究開発を進めている。培養液の性質次第でミドリムシがためられるパラミロンの量を増やせる。

 セイコーエプソンは紙のリサイクル技術を保有しており、今回は紙由来の糖分をミドリムシのエサとして利用する*2。現状は価格競争力に優れる古紙を想定しているが、パラミロンを効率よくためられるなら古紙由来の培養液である必要はない。同コンソーシアムでは幅広く検討し、代替案が見つかれば移行することも視野に入れる。

*2 セイコーエプソンは15年、オフィスなどで使用済みの紙を原料に再生紙を生産できるオフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」を開発。水を使わずに紙を生産するなど、繊維材料から新たな素材を造り出す技術「ドライファイバーテクノロジー」が使われており、パラレジンの糖化プロセス確立でも同技術を応用する。

 次の工程はユーグレナが担当する「誘導体化原料となるパラミロンの規格化」である。上記の培養液を受け取り、ミドリムシを生育してパラミロンを取り出すまでがユーグレナの役割だ。