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専門家による成分分析の結果は「添加物あり」

リコール対象となったイケアの深皿「タルリカ深皿20」
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リコール対象となったイケアの深皿「タルリカ深皿20」
同社は「PLA100%で成形した」と説明する。(写真:日経クロステック)

 ある専門家のグループは、イケアがこの製品シリーズの販売を開始した後、すぐに製品(品質不具合品)を購入。何らかの添加材/剤が混入している可能性を疑い、イケア側に調査の必要性を報告するとともに情報の提供を求めたという。同社の回答は「商品のカタログなどに記載されている以上の情報は提供できないというものだった」(専門家)。

 そこで、専門家は簡易評価を行った。PLA成形品は、火であぶって溶かすと特有の香りを放つ。「ポップコーンやホットケーキを調理しているときのような、ほんのりと甘い香り」(専門家)だ。ところが、品質不具合品を火であぶったところ、「鼻につくような刺激臭がした」(同氏)。この臭いの違いから、品質不具合品に使われた材料が100%のPLAではなく、何らかの添加材/剤が入っている可能性を指摘した。

簡易試験で火であぶったタルリカ深皿20
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簡易試験で火であぶったタルリカ深皿20
専門家はPLA100%とは違った臭気を感じたという。(写真:日経クロステック)

 そこで、日経クロステックはある研究機関に成分分析を依頼。フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)分析および熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行った。結果から言うと、イケアの品質不具合品はPLA100%ではなく、添加材/剤が加えられていた。

 具体的にはまず、タルク(ケイ酸マグネシウム)が1割程度(質量%)含まれていた。他に、脂肪族アミドおよびトリアセチンとみられる成分がそれぞれ数%(同)ずつ添加されている可能性がある*2

*2 その他の成分については詳細を分析中。

 このうち、耐熱性を高めるために使ったと考えられるのがタルクだ。PLAの結晶化を促すための結晶核剤として添加したとみられる。一方、脂肪族アミドを加えたのは、滑剤としての機能を期待したのだろう。滑剤とは、射出成形における溶融時の流動性や離型性(金型からの取り外しやすさ)を高めて成形性を改善するための材料だ。そして、トリアセチンは可塑剤として加えたと思われる。可塑剤は、材料を柔らかくして成形性を高めるために添加する材料である。 

 成分分析から、80~85質量%程度のPLAに、10質量%程度のタルクを加えて耐熱性を高め、2~3質量%程度の添加剤を入れて加工性を改善した材料によって品質不具合品は成形されていた可能性があることが分かった。

破損のメカニズムは熱疲労と加水分解か

 タルクを添加して耐熱性を高める方法はPLAを扱う業界では知られている。イケアの製品が加熱で破損した原因として、専門家や材料メーカーが指摘する可能性は「タルクの配合に問題があった」というもの。専門家と材料メーカーの共通した見立ては、使用中に加熱と冷却が繰り返されることで生じる熱応力による熱疲労や、落下やぶつけたときの衝撃による機械的な応力により、PLAに含有されたタルクの部分が脆性(ぜいせい)破壊して亀裂が発生。この亀裂が徐々に進展していき、PLA成形品が破断に至った。加えて、加水分解による破損も考えられるという。

 まず、タルクは鉱物の粒であるため、含有量を増やすと成形品の耐熱性が高まる半面、もろくなる性質がある。10質量%程度であれば特に多いとは言えないが、均一に混ざっておらず偏在している箇所があれば、脆性破壊の原因となり得る。

 タルクの粒径や形状も重要だ。粒径が大きいと応力集中が生じて脆性破壊しやすくなる。形状でいえば、角が丸まっておらず、とがっているタルクの方が成形品が破損しやすくなる傾向がある。

 では、タルクの含有量を減らし、角を丸くして粒径を小さくすればよいかと言えば、事はそう単純ではない。まず、タルクの含有量を減らしすぎると十分な耐熱性が得られない。加えて、粒径を小さくすると加水分解の影響をより強く受けてしまう。

 PLAは、乳酸がエステル結合によって重合して長くつながった高分子(ポリエステルの一種)だ。エステルには加水分解する性質がある。そこに酸やアルカリが存在すると、それが触媒機能を果たして加水分解を促進する。実はここで「タルクがアルカリの触媒として作用する」(材料メーカー)。タルクの粒径は小さいほど表面積が大きくなり、PLAの部分の加水分解はより速く進む可能性がある。

 つまり、タルクを使う場合は脆性破壊と加水分解がトレードオフになるという指摘だ。脆性破壊を抑えるには粒径を小さくした方がよいが、加水分解のリスクが高まる。一方で、加水分解を抑えるには粒径を大きくした方がよいが、その場合は脆性破壊のリスクが上昇するというわけだ。

 「タルクを入れるのであれば、壊れにくい粒径にしたり、加水分解を防ぐ処理を施したりする必要があった。イケアにはPLAを扱う上で技術的な知識が欠けていたのではないか」(専門家)。