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 スウェーデンIKEA(イケア)が、「植物由来プラスチック製」として販売していた食器に品質不具合があったとして自主回収(リコール)に追い込まれた。同社は日本市場だけで9万5719個の品質不具合品を販売。返品によって商品代金全額を返金すると2021年5月18日に発表した。「知識不足が起こした品質不具合の典型例だ」──。バイオプラスチック(以下、バイオプラ)に詳しい専門家(以下、専門家)の見方は厳しい。

イケアが自主回収した植物由来プラスチック製の食器
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イケアが自主回収した植物由来プラスチック製の食器
PLA製でありながら100℃の耐熱性があり、電子レンジにも対応するとうたっていた。ところが、加熱によって割れたという市場クレームが世界から寄せられ、返金する事態となった。(出所:イケアのWebサイト)

 品質不具合品は、製品名「HEROISK(ヘロイスク)」「TALRIKA(タルリカ)」のプレート(皿)やボウル(深皿)、マグカップ。「環境フットプリント(環境への負荷)は小さく、耐久性(耐熱性)と安全性の両方を兼ね備えた食器」(イケア)という特徴を打ち出して販売し、環境意識の高い消費者などから人気があった。ところが、市場クレームによって加熱による破損の恐れがあることが発覚。「熱い飲食物を入れて割れたという事故の報告が海外で100件ほどあった。中には、やけどを負ったという声もある。ただし、日本からの報告はない」(同社)。

PLA製マグを宣伝するイケアのカタログ
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PLA製マグを宣伝するイケアのカタログ
再生可能なプラスチック製で、サステナブル(持続可能)であると説明していた。(写真:日経クロステック)

「PLAを100%使っている」

 イケアが製品の成形に使ったのはポリ乳酸(PLA)だ。原料にトウモロコシを使い、使用後は土壌中などの微生物によって水と二酸化炭素に分解する(自然に返る)プラスチック、すなわちPLAは「植物由来・生分解性プラスチック」である。「材料は100%のPLA。耐熱性を持たせた『CPLA』を使っている。石油由来プラスチックは使っていない」(同社)。それでいて、耐熱温度は100度(℃)を実現したという。なお、材料メーカーによれば「CPLAは一般的な材料用語ではない」。

品質不具合品の底面に記された製品情報
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品質不具合品の底面に記された製品情報
ポリ乳酸でできていることを示す「PLA」の文字が製品の底面に一体成形されている(下の白枠)。耐熱温度が100℃であること(上の白枠)、および台湾製であることも記されている。(写真:日経クロステック)

 だが、イケアのこの説明に専門家は首をひねる。実は、PLAは環境負荷が低い半面、耐熱性が低いという課題があるからだ。「耐熱性の1つの指標である荷重たわみ温度*1は55~60℃。この程度の温度で軟化して変形するため、PLAが100%の成形品は熱い飲食物に使えない」(専門家)。

*1 荷重たわみ温度 プラスチックに荷重をかけた状態で加熱し、たわみが一定以上になる温度のこと。試験方法は「JIS K7191」として規定されている。まず、試験片(長さ80×幅10×厚さ4mm)を両端支持(支点間距離64mm)の治具にセットする。熱媒中で支点間の中央に所定の荷重を負荷し、熱媒温度を室温から昇温速度120 ℃/hで加熱する。試験片中央のたわみ量が0.34mmに達するときの熱媒温度が荷重たわみ温度(DTUL:Temperature of Deflection Under Load)となる。

 イケアのCPLAについて、材料メーカーは「恐らく、『C』はCrystal(クリスタル:結晶)の頭文字で、いわゆる結晶化させたPLAという意味だろう」(同材料メーカー)。PLAは結晶化度を高めると耐熱性を増すことが知られているからだ。

 この他、PLAの中には耐熱性を高めたポリ-L-乳酸(PLLA)という材料もある。荷重たわみ温度は100~110℃になるという。だが、実用化例は「ティーバッグなど一部に限られており、皿や食器のような成形品に使われた事例はない」(同材料メーカー)。PLAは成形が難しいという課題もあり、成形技術が開発途上にあるためだ。

PLA100%で成形したシャンパングラス
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PLA100%で成形したシャンパングラス
日精樹脂工業がプラスチック・ゴムの国際展示会「K2019」(2019年10月、ドイツ・デュッセルドルフ)で成形サンプルとして出展して大きな話題となった。ただし、熱い飲み物を注げる耐熱性はない。(写真:日精樹脂工業)

 では、なぜイケアは耐熱性の機能を打ち出せたのか。