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 「大学病院と小規模な病院を高速回線網で接続し、地方でも高度な遠隔医療を受けられるようにしたい」――。

 こう意気込むのは、学術情報ネットワーク(SINET)を構築・運用する国立情報学研究所(NII) 副所長兼学術ネットワーク研究開発センター長の漆谷重雄 教授だ。NIIと日本外科学会などは2021年中に、約2000km離れた福岡市と札幌市の病院をSINETで接続し、遠隔医療の実証実験を開始する。国内拠点間を高速かつ低遅延に通信できるSINETは、学術用途にとどまらず、医療分野や教育分野、産業分野への応用に期待が高まっている。高速性や高い安全性を持つ新たな産業インフラとして活用できれば、さまざまな地域格差を解消する次世代通信網へ活用できる可能性がある。

 SINETとは、日本で900以上の大学や研究機関などが利用する、学術情報用のネットワークだ(図1)。1987年に運用を開始し、現在は第5世代に当たる「SINET5」の運用が始まっている。全都道府県にSINETのデータセンター(DC)拠点を設置し、DC間を100Gビット/秒という大容量の帯域で結んでいる

* SINET5は、東京大阪間のみ400Gビット/秒の帯域で接続できる。

図1 SINET5は全国で975機関(2021年3月末時点)が加入する(出所:NII)
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図1 SINET5は全国で975機関(2021年3月末時点)が加入する(出所:NII)

全国の大学から富岳が利用可能に

 現在は主に国内外の研究施設と大学間などでデータを送受信するために使われている。SINETは、スーパーコンピューター「富岳」を支える屋台骨の役割にもなっている。全国の大学などの研究機関から、富岳が設置された神戸市の理化学研究所 計算科学研究センターに接続することで遠隔利用を可能にしている。

 SINETの特徴は大容量だけではない。商用のネットワークサービスと比べて、低遅延という特徴もある。SINETは専用ネットワークであるため、商用網に必要なインターネットサービスプロバイダー(ISP)を経由しなくて済む。多くの機器を経由しない分、遅延を抑えられるからだ。ネットワーク設計の自由度が高いL2VPN(広域イーサネット)を使うことも可能で、遠隔地を高速かつ低遅延、さらに安全に結ぶことができる。

 SINETでは、そんな高品位なネットワークを、全国47都道府県に設置した計50カ所のデータセンターを中心にフルメッシュのトポロジーで接続している。このような国全土を網羅する研究用ネットワークは、世界でもほとんど例を見ないという。米国や中国の研究用ネットワークは光ファイバー網の全長では優位性があるものの、都市間などでの通信にとどまる。

 ここに来て、そんな「隠れた日本最強の通信インフラ」とも言うべきSINETを、学術目的以外にも活用していこうという機運が高まっている。東京大学前総長で同 大学院 理学系研究科 教授の五神真氏は、「SINETを、日本列島をくまなく覆うデータ神経網にすれば、デジタル時代の日本の圧倒的な優位性になるはずだ」と期待を込める。