「日本には企業向けソフトウエアを開発・販売する数多くの優秀なスタートアップがある。しかしこれらの企業は技術に集中しがちで、営業担当者やエンジニアを十分に確保できておらず、どれだけ良い製品を作っても広まりにくい。この状況を打開したい」。こう意欲を見せるのは、パトスロゴス(東京・港)の牧野正幸代表取締役CEO(最高経営責任者)だ。
牧野氏は、ERP(統合基幹業務)パッケージ業界における著名人の1人だった。旧ワークスアプリケーションズ(現在はWorks Human Intelligenceとワークスアプリケーションズなどに分社)創業者の1人としてCEOを務め、欧州SAPや米Oracle(オラクル)を競合と位置づけてERPパッケージ「COMPANY」や「HUE」を開発・販売していた。
だが2019年6月、資金調達を目的として主力の人事管理ソフトウエア関連事業を投資会社の米BainCapital(ベインキャピタル)に売却。同年10月に、牧野氏は旧ワークスアプリケーションズを退社した。その後、化粧品会社の取締役や複数企業の社外取締役を務めたものの、ITビジネスに積極的には関わっていなかった。
約1年間の沈黙を経て、牧野氏は2020年10月に企業向けソフトウエアの開発・販売を支援する新会社パトスロゴスを設立。2021年5月に第1弾となる製品を発表し、本格的に再始動を果たした。
「HUE」の開発は必要だった
牧野氏が旧ワークスアプリケーションズを退任する主要なきっかけの1つが、HUEの開発に伴う資金不足だった。
HUEはCOMPANYに続くERP製品で、2015年に提供を開始した。業務ソフトウエアでは一般的なRDB(リレーショナルデータベース)を利用せず、カスタマイズができないSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として提供するなど、当時としては先進的なアーキテクチャーを採用して話題を集めた。
牧野氏は「2011年に実施したMBO(経営陣が参加する買収)がターニングポイントだった」と振り返る。MBOをしたのちに「HUEの開発工数が想定よりも膨らんだ」(牧野氏)。結果として開発費用がかさみ、資金調達が困難になった。
それでも牧野氏は「あの時点で、HUEの開発は必要だった」と強調する。「米国では人事管理SaaSのWorkday(ワークデイ)が登場していた。WorkdayはAI(人工知能)やインメモリーDBなど先進技術を活用していた。あの時点でHUEの開発を決断していなければ、競争に負けていた可能性がある」と牧野氏は振り返る。