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 「トヨタの社長は部品加工の現場の状況をご存じないのだろうか。今や自動車や設備の部品のものづくりは、ほぼ加工メーカーが支えていると言っても言い過ぎではない」。トヨタ自動車や同社グループから自動車や設備の部品加工を請け負うある中小企業(以下、加工メーカー)の社長の言葉だ。

 2019年度の決算発表の席で、トヨタ自動車の豊田章男社長は新型コロナウイルス禍で先が全く見通せない中、「日本にはものづくりが必要」「トヨタだけを守ればよいのではなく、日本の自動車産業の要素技術と、それを支える技能を持つ人材を守り抜く」と語った。世間が高く評価したこの言葉に対し、加工現場からは意外な声が聞こえてくる。

自動車部品とそれらを加工する工作機械
自動車部品とそれらを加工する工作機械
日本企業の図面品質の低下が目立つ。そのまま加工できない図面が増えており、部品メーカーのノウハウや努力に大きく依存している。(写真:日経クロステック)
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 トヨタ自動車が日本のものづくりを守るのに大きく貢献しているのは事実だ。そのことは競合企業に比して高い国内生産比率が証明している。だが、同社のものづくりもまた、部品の発注先である加工メーカーに支えられている現実があるという指摘だ。

 加工現場をよく知るトヨタ自動車生産技術部門出身のOBは、この指摘にうなずく。「トヨタ車は加工メーカーの知恵とノウハウ、努力によって支えられている。加工現場の実態は、トヨタを退職した後でようやく見えた。トヨタの看板を背負った者の目線からでは見えないものがあるのだと痛感した」と。

「加工できない図面が年々増えている」

 その部品加工の現場に異変が生じている。日本企業の「図面品質の劣化」が著しいのだ。「加工できない図面が年々増えている。『どうやって造るの? あなたが造ってみせてよ』と何度言いたくなったことか」(前出の社長)。図面品質の劣化は、規模の大小を問わずこれまで多くの日本企業に見られてきた。だが、ここに来てついに「危険水域」に達したと言えるほど、ひどい状態になっているというのだ。

 論より証拠。例を示そう。

【CASE1】「4-C3」との記述がある次の図面を見てほしい。これは、部品の「角部(直角をなす2辺)を3mm削る面取り(『C面取り』とも言う)を、4カ所行え」という指示だ。金属の角部をそのままにしていると、指を切ったりしてけがをすることがある。それを防ぐための処理だ。ところが、図面に描かれた部品の形状をどう見ても、C面取りできるのはオレンジ色の枠で囲んだ2カ所しかない。残り2カ所はどこを面取り処理すればよいのか。

【CASE1】C面取りに関する問題を抱えた図面
【CASE1】C面取りに関する問題を抱えた図面
部品の形状を見るとC面取りができるのは左右2カ所なのに、4カ所に施せという記述になっている。(出所:実際の図面を元に日経クロステックが作製)
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【CASE2】表面処理の指示がない部品の図面を示した。この図面を受け取った部品メーカーは、これと組み合わせる他の部品を調べてみた。すると、そちらにはめっき処理を施していることが分かった。そのため、部品メーカーはこの部品もめっき処理が必要だろうと想定し、その分の見積もりを顧客に提示した。それとも顧客は、組み合わせ部品なのにこの部品だけ切削後に表面処理しないまま使うのだろうか……。

【CASE2】表面処理に関する問題を抱えた図面
【CASE2】表面処理に関する問題を抱えた図面
表面処理の欄に記述がない。表面処理を考慮せずに設計したことが分かる。(出所:実際の図面を元に日経クロステックが作製)
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