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 ソニーグループでイメージセンサーなどの半導体事業を手掛けるソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士氏(同社代表取締役社長 兼 CEO)が、2021年5月27~28日開催の投資家向け説明会「IR Day 2021」と、その後6月に開催した報道機関向け説明会で事業戦略を明かした。前回の記事「高画素でセンサーのシェアを奪うサムスンに、ソニーが反転攻勢」では主にモバイル向けイメージセンサーについて取り上げた。後編となる今回は、同社が「新規領域」とする車載やFA(ファクトリーオートメーション)、セキュリティーなどの分野に向けたイメージセンサーの事業戦略を主に取り上げる。加えて、イメージセンサー以外の半導体事業の近況も紹介する。

 新規領域のうち、自信を見せたのが車載向けの事業である。20年度(20年4月~21年3月末)、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、車両販売台数が減少したものの、中国市場を中心に予想を上回るペースで回復していったという。加えて、ADAS(先進運転支援システム)を備え、カメラ搭載数が多い車両は堅調で、今後はさらなる伸びを期待できるとする。この波に乗るために、大きく4つの技術開発や販売促進に力を入れる。モバイル向けで強いイメージセンサーに加え、LiDAR(Light Detection and Ranging)向け受光素子、イメージセンサーと他のセンサーを組み合わせるセンサーフュージョン、車内監視向けのToF(Time of Flight)方式の3次元(3D)センサーである。

車載向けにおける注力4分野
車載向けにおける注力4分野
(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
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 このうち、既に成果が出て、業績が堅調に推移しているのが車載向けイメージセンサーである。14年に製品化し、16年から出荷を始めた。同センサーの売上高は、16年度から現在にかけて、年率平均50%ほどで成長してきた。採用するOEM(自動車メーカー)の数も順調に増えている。具体的な数字を明かさないものの、16年度比で20年度は4倍になったという。今後もさらに増加する見通しで、25年度は20年度の3倍にまでなるとみている。地域別の構成比も、16年度は日本と欧州に偏っていたが、20年度、25年度と時間が経過するとともに、より分散すると予測している。

車載向けイメージセンサー事業の売上高推移
車載向けイメージセンサー事業の売上高推移
(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
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 車載向けで次の「飯のタネ」として期待するのが、LiDAR向けの受光素子のSPAD(Single Photon Avalanche Diode:単一光子アバランシェダイオード)である。長距離LiDARで一般的なダイレクト(直接)方式のToFセンサーの受光部に用いるものだ。21年2月にオンライン開催された半導体業界のオリンピックと称される国際学会「2021 International Solid-State Circuits Virtual Conference(ISSCC 2021)」で、開発したSPADを組み込んで試作した長距離LiDARを披露した。現状ではLiDARは内製せず、他社のLiDAR製品に組み込んでもらう目的で、SPADの製品化を狙う。22年初頭に車載LiDAR用SPADのサンプル出荷を目指している。

 新規領域のうち、FA向けに関しては新型コロナの影響はほとんどなく、着実に業績が伸びており、中長期の成長を見込んでいる。セキュリティー向けも、市場が堅調に成長しており、期待できるとした。

 ソニーはこうした分野で用いるような、センシング用途のイメージセンサーの売り上げを伸ばし、モバイル向けイメージセンサーに次ぐ柱に育てる。イメージセンサーの売り上げに占めるセンシング用途品の比率は20年度で4%ほどと19年度に比べてほぼ横ばいと苦戦した注1)。だが、25年度で30%にまで高めるという目標は据え置いており、この目標達成のために攻勢に出る。

注1)センシング用途品には、モバイル向けToFセンサー用SPADなども含む。

 センシング用途では、イメージセンサーというハードウエアを販売するだけでなく、ソフトウエアやサービスも含めて販売し、顧客との継続的な付き合いを通じて安定的な収益を得る「リカーリング型」事業を志向している。

 その切り札として期待するのが、「インテリジェントビジョンセンサー」と呼ぶ、20年5月に発表したAI(人工知能)機能を搭載したイメージセンサー「IMX500」である。ロジック回路部にISP(Image Signal Processor)の他、推論処理を実行するソニー独自の演算回路(DSP)や、推論モデルや重み付けのパラメーターなどを格納するSRAMを備える。エッジデバイス向けで、例えばショッピングモールの客の動向や店頭在庫管理、工場内での作業員の状態を検知する用途などを想定する。

 ロジック回路部のSRAMに格納する推論モデルを変えることで、1台のカメラを設置位置や状況、時間などに応じて使い分けられる。そこで、この推論モデルを販売したり、推論モデルを実装(デプロイ)・再学習するためのソフトウエアを販売したりして、継続的に収益を得る。

IMX500の概要
IMX500の概要
(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
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 20年5月の発表以降、問い合わせ件数は280件に達し、このうち54件の商談が進行中である。54件中、44件がSIer(システムインテグレーター)といったパートナー企業との商談で、10件がエンドカスタマーとの直接的な商談だとする。10件中、6件がリテール(小売り)、2件がFA、1件がスマートシティー、1件がスマートホームと、当初想定していた顧客からの商談が多かったとする。

 これら商談のうち、3つの事例を紹介した。1つめは国内大手小売りと取り組んでいるレジレス決済への応用である。従来技術でレジレス決済を導入する場合、大きく2つの課題があった。1つは、盗難などの異常行動を検知する必要があること。もう1つは、店舗内における用途別に複数種類のカメラ(ハードウエア)が必要なことである。IMX500であれば、AIモデルを選択・切り替えることで、同一種類のカメラでさまざまな用途に対応できる。加えて、カメラ自体の小型化やコスト削減を図れる利点があるという。

国内大手リテール顧客との事例
国内大手リテール顧客との事例
(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
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 2つめの事例はローマ市との取り組みである。ローマ市では、駐車スペースを探すための市街地での渋滞、バス停やバス内の混雑、歩行者の信号無視による交通事故の多発に頭を悩ませている。そこで、この3つの課題を解消するために、21年6月からIMX500を搭載したカメラ(以下、スマートカメラ)を利用したPoC(概念実証)を行う。

ローマ市内に配置されたIMX500搭載のスマートカメラ
ローマ市内に配置されたIMX500搭載のスマートカメラ
(出所:Sony Europe)
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 例えば、地元のアプリベンダーがスマートカメラで捉えた駐車位置を、モバイル用アプリを通じてドライバーに通知するスマートパーキングシステムを開発した。これにより、駐車スペースの早期発見を促し、渋滞軽減につなげる。

 バス混雑の課題に対しては、バス運行会社がスマートカメラで、バス停で待っている人の状況を事前に検知して、バスの運転手に伝える。これにより必要以上の乗車を防ぎ、運行の最適化を図る。信号無視の問題に対しては、スマートカメラによって信号を無視した人物を検知した場合にライトを照射し、ドライバーに注意を促すことで事故防止につなげる。

ローマ市との商談事例の概要
ローマ市との商談事例の概要
(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
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 いずれも従来の監視カメラで可能だが、IMX500を利用した際のウリは、プライバシーに配慮できることである。IMX500は検知結果をメタデータとして出力するため、自動車のナンバープレートや顔写真といった個人を特定できる情報を保存せずに、スマートカメラを運用できる。この点が評価され、ローマ市で実証が始まった。

 スマートシティー分野では、カメラによるプライバシー侵害が懸念されており、特に欧米では問題視されている。加えて、顔認証システムの警察などによる乱用も懸念されている。それだけに、プライバシーに配慮しながら街のスマート化を進められるIMX500は、欧米市場で強みを発揮しそうだ。

 第3の事例は、ソニー・ミュージックソリューションが手掛けているリテール向けAR(Augmented Reality)である。モバイル端末を通じて、現実空間に仮想物体などを重畳し、新たな顧客体験の提供を目指すというものだ。ここにIMX500を導入し、付加価値向上を図る。IMX500から出力されるメタデータから顧客の状況を検知し、その状況に応じたARコンテンツをリアルタイムに表示する。IMX500によって、遅延時間を短縮しつつ、プライバシーに配慮できるという。

ソニー・ミュージックソリューションが手掛けているリテール向けAR
ソニー・ミュージックソリューションが手掛けているリテール向けAR
(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
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