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 深刻な人手不足やコロナ禍での3密回避のニーズなどによって、人と協働するサービスロボットの現場導入が物流・工場・オフィスビル・レストランなど多くの業界で本格化しようとしている。

 しかし、ロボットを導入したくても現実には手間がかかり人がタスクをこなした方が面倒がなかったり、コストに見合わなかったりといった理由で導入ができていない現場もある。その1つが建築中のビルの現場である。ところが、その壁を突破したロボットが登場した。日本を代表するAI(人工知能)技術開発企業であるPreferred Networks(PFN)と鹿島が共同で開発した、建築現場用の清掃ロボット「raccoon(ラクーン)」である(図1)。

鹿島とPFNが共同開発した建築現場用清掃ロボット
鹿島とPFNが共同開発した建築現場用清掃ロボット
「raccoon」は現場でティーチングをしなくても、操作画面から最短3タッチでコンクリート床面の自動清掃を開始する。既存の手動清掃ロボットを改造したもので、PFNが搭載するセンサーの選定や自律移動のアルゴリズムなどソフトウエア開発を担当した(写真:進藤智則)
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 raccoonは建築現場で清掃ルートを事前に指定するティーチングをしなくても、自ら清掃可能エリアを探索しながら自律移動をして作業をする。100分の連続稼働で500m2 のエリアを清掃できる。既に鹿島が施工する首都圏のビルの現場2カ所で実証実験を実施し、多くの現場への本格導入に向けて開発を継続しているという。

 自律移動ロボットは、ビルの清掃や警備、館内配送など多くの用途で既に実用化されている。完成したビル内をLiDAR(Light Detection And Ranging)で作製した地図情報を基に自己位置を推定し、自律移動するのは技術的にさほど難しいことではない。しかし、建築中のビルとなるとわけが違う。「技術的にめちゃくちゃ難しい」。今回の開発を率いたPFNエンジニアリングマネージャー ビジネス開発の猿田貴之氏がこう話すように、ある意味、自律移動ロボットにとって悪条件がそろった環境なのだ。

raccoonの操作画面
raccoonの操作画面
画面は、現場内の地図や作業員の指示がなくても、ロボットが自ら清掃可能エリアを探索しながら自律清掃する「おまかせ清掃モード」(図:PFN)
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ロボットは変化に弱い

 鹿島によると、建築現場では通常、1つの作業終了時にその都度清掃が必要なほか、多くの現場では週に1回程度、一斉清掃をしているという。もちろん手作業が主流だ。

 「建築現場ではちりや粉じん、作業に伴うごみが常時発生し、危険な箇所が多数存在する。このため、清掃ロボットはまずは安全に動くことが第1条件。加えて世話が焼けないこと、つまり、ティーチングなど複雑な操作が不要で、自律かつ安定的に稼働することが重要になる。世話が焼けるようでは自分たちで掃除した方が早い」(鹿島)。

 建築現場ではGNSS(全球測位衛星システム)による位置計測が機能しない屋内作業が多い。床には資材やケーブルが転がっていたり、機材や高所作業車などが置かれていることも多く、工事の進捗に応じて状況も変化する。さらに段差があったり、壁がない開口部といった危険エリアもあったりする。照明条件が悪いことも多く、それはカメラ画像を介した環境認識を難しくする。

 これまでも建築現場用の清掃ロボットはあるにはあったが、事前にティーチングが必要だったり、立ち入り禁止エリアを自動認識できなかったりして、現場の厳しい要求に応えられるロボットはなかったという。「ロボットを利用するメリットを享受できていなかった。例えば、あらかじめ清掃領域の4隅に反射板の設置が必要になるなど作動に準備作業が必要だったり、清掃領域に障害物などがあるとそれをうまくかわすことができず、ロボットが立ち往生するなどの課題があった」(鹿島)。

 今回の開発は、PFNが鹿島から受注し、搭載するセンサーの選定や自律移動のアルゴリズムなどソフトウエア開発を担当。既存の手動清掃ロボットを改造した。中核技術は、raccoonに搭載した建築現場内を自律移動するためのシステム「iNoh(アイノー)」にある。PFNが得意とするディープラーニング(深層学習)技術によって現場環境を認識するとともに、正確に自己位置を推定することで、様々な障害物を検出・回避しながら移動する。PFNでは今後、iNohを清掃ロボット以外に、建築現場向けの巡回ロボットや搬送ロボットに実装することも検討している。

 では、PFNはいかに建築現場における高難度の要件をクリアしたのか。

raccoonが搭載する各種のセンサー
raccoonが搭載する各種のセンサー
raccoonには数多くのセンサーが搭載されている。前方周囲を見る魚眼カメラ、足元を見る距離画像カメラ、3次元LiDARと2次元LiDARが1基ずつ、さらに障害物を検知する超音波センサー、段差を検知するToFセンサー、そしてIMU(慣性計測装置)などを搭載している。外形寸法は1205mm×776mm×816mm、重さ約80kg、稼働時間は通常約120分、 乗り越え可能段差は12mm(写真:進藤智則)
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