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実は「案外壊れない」、生態系は家電へ拡大

 設計と製造はODMベンダーに任せ、自分はマーケティングと販売窓口だけを担えれば、製品を販売できるようになる。「1人メーカーの社長の仕事は、いかにトレンドを読んで売れるタイミングで売れる商品を投入するかと、信頼が置けて魅力的な製品であるかをアピールする宣伝ページ作りだ」と、デジタルガジェットの開発に詳しい専門家は打ち明ける。

 必ずしも全てに当てはまるわけではないが、通販サイトでこうした家電製品を購入した際、修理などサポート対応がいまいちな場合があるのも、1人メーカーが理由ではないかと推測される。製品についてのサポートが必要になったとき、1人メーカーは仲介役になってODMベンダーに問い合わせるしかない。そのため、サポート対応が不十分になりがちだ。その結果、修理を受けるよりも新品を送ったほうが合理的だと考えるのである。

 こうしたデジタルガジェットは壊れやすいというイメージがあるが、実は「案外壊れない」のだという。SoC化によって部品点数が減り、電子基板の信頼性も高まり「品質保証が不要なほど壊れにくくなってきた」(谷田氏)。メカニカルな機構では故障や不具合はあるものの、電子的な部分では故障が驚くほどないという。谷田氏は「出張検品サービスを提供しているが、対象になるのは外装や組み立て、付属品の欠品や取り違えなど、うっかりミスが多い」と話す。

 デザインハウスやODMベンダーが生み出す1人メーカーの生態系は、デジタルガジェットのみならず、家電へも広がっていく。類似の例では、世界的にメジャーな家電メーカー以外の家具メーカーなどが、安価で最低限の機能を備える「ODM家電」を販売するようになってきた。いわゆる「プライベートブランド」に、ODMベンダーが製造する家電群が採用されていくように、社員1人でも家電メーカーになれる時代が来ている。

 とはいえ、家電製品を作るのは簡単ではない。例えば、白物家電や大型家電を製造できるのは「まだ大手メーカーに限られている」と谷田氏は話す。「製造時のノウハウや、メカニカルな機構など、技術力が求められる部分が多い」(谷田氏)ため、小規模ODMベンダーでは参入が難しい面があるという。

 高性能なIoT家電もその一つである。ODM家電は、機能で差別化することが難しい。なぜなら、ソフトウエアサービスやIoT連携機能は、基板と組み込みソフトウエアに依存するため、同じデザインハウスが作った基板を使っている限りは、どの製品でも差が出なくなるからだ。しかも、「デザインハウスはSoCベンダーの組み込みソフトウエアをそのまま実装するだけでカスタマイズはしない」(谷田氏)ため、ユーザーインターフェースや使い勝手が同じになる。

 そのため「差別化するにはデザインハウスの機能を自社で持つ必要がある」(IoT家電ベンチャーのShiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏)。例えばShiftallでは、基板設計は自社で行い、外部のPCBベンダーやODMベンダーに提供して、最終製品を組み上げるという。こうした独自の機能や意匠を核とする家電ベンチャーは、1人メーカーとは一線を画した存在になるだろう。

IoT家電の場合に、家電ベンチャーがデザインハウスの機能を取り込んだ際の関係性の概要
IoT家電の場合に、家電ベンチャーがデザインハウスの機能を取り込んだ際の関係性の概要
(図:日経クロステック)
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