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 完全ワイヤレスイヤホンやWebカメラ、腕時計型デバイス……。「Amazon.com」などの通販サイトで買い物をしていると、外見や機能がほとんど同じなのにメーカーが異なるデジタルガジェットがずらっと並んでいる。なぜこうしたガジェットが通販サイトを埋め尽くすのか。

 背景にあるのは、ワンストップでオリジナルのガジェットを発注できる中国独自の製造生態系である。この生態系が、商品企画と宣伝だけでモノが作れる“1人メーカー”を多量に産んでいるのだ。

 中国の製造業の構造は発注者からの入り口となるODM(Original Design Manufacturing)の背後に、組み立て工場、設計ベンダー、基板メーカー、部品メーカーなどがつながり合ったネットワークが特徴である。中国・深センで製品開発や製造を手掛けるジャイナルサービス代表の谷田和郷氏は「中国・阿里巴巴集団(アリババグループ)のマッチングサービスが中小企業をつなぎ、こうしたネットワーク構造が生まれたのではないか」と話す。

 この構造で特徴的なのが、「デザインハウス」という企業の存在感が大きいことである。デザインハウスは、SoC(System on a Chip)を使った電子基板と組み込みソフトウエアを作る企業である。

 SoCには、イヤホンや腕時計型デバイスなど、ある特定の製品を作るための機能が集約されている。SoCベンダーはそれぞれの機能の製品を作るために必要な部品や回路図をまとめたレファレンスデザインや、レファレンスドライバーソフトウエアを開発者に向けて提供している。デザインハウスはこうした情報の供給を受け、それを基に基板を設計し、組み込みソフトウエアと共に納品する。

 例えばテレビの製造を例に挙げると、まず発注者から製造を委託され、最終製品を納品するのがODMベンダーである。ODMベンダーは、樹脂成型や金型製作は自社で担当しつつ、それ以外の部品は外部から調達して最終的な製品の組み立てを担う。この部品調達先が、デザインハウスや液晶モジュールベンダー、通信モジュールベンダーなどである。

 デザインハウスが自社で基板を製造せず、設計図をPCB(プリント基板)ベンダーに送って製造する場合もある。「もともとはSoCベンダーの販売代理店が始まりで、カスタマイズを続けるうちに自分らで作ったほうが早いと考え、今のデザインハウスの形になっていった」(谷田氏)

テレビの場合のODMベンダーとデザインハウスの関係性の概要
テレビの場合のODMベンダーとデザインハウスの関係性の概要
IoT家電などでは、ここにアプリベンダーやサーバーサイドベンダーが加わる。(図:日経クロステック)
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 こうした中国の生態系は、SoCの進化とともに強固になってきた。SoCが高性能化し機能が集約され、基板が小さく簡素になり、最終製品の仕様もSoCに依存するなど、デジタルガジェットはSoC無しでは成り立たなくなったからだ。だからこそ、代わりのきかないSoCベンダーが生態系の頂点に立っている。

 逆に最終製品を作るODMベンダーは、生態系の下位に位置する。代替となる企業が多いため、独自性がなければ生態系の中の重要度は低い。日本の大手メーカーのように、最終製品を作るメーカーを頂点とした系列企業からなる構造とは真逆である。

 生態系の下位だとしても、発注者にとっては重要な存在である。大手の製造受託企業は数百万個など大きなロットでなければ受けてくれないが、こうした小規模なODMベンダーは小ロットからでも受注してくれるため、販売見込みが少ない製品や様々なメーカーの受け皿になっているからだ。

 ただし、小規模ODMベンダーは、教科書通りに製品を組み上げていくだけで、製品のカスタマイズにはほとんど対応できない。そのため、1社に対しては小ロット生産でも複数企業からの発注を合わせれば1つの製品を大きなロットで作っているのと変わらなくなるため、実質的には大ロット生産と同じになる。

 しかも、ODMベンダーとデザインハウスはそれぞれが得意とする製品分野を持つので、テレビやイヤホンなど、製品カテゴリーごとに受注する企業が確立しつつある。つまり、発注者がテレビを作りたいと思ったら、受託するODMベンダーがほぼ同じになり、似通った製品が生まれていく。

 こうした仕組みだからこそ、通販サイトには多くの類似製品が並ぶ。製造は外部に丸投げできるため、1人からごく少数でも成り立つ1人メーカーでもやっていけるのだ。