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 平井卓也デジタル改革相が内部会議で政府職員らに発言した内容が波紋を広げている。会議の一部の音声データが流出し、そこで平井大臣は政府IT発注で減額交渉のさなかにあったNECに対してデジタル庁の発注から排除するという趣旨を発言していたとされる。週刊文春は同じ会議で平井大臣が「懇意にするベンチャーに発注を指示した」と報じた。

 平井大臣は2021年6月11日の会見で、NECに対する発言は本意ではなく「減額交渉に臨む幹部に檄(げき)を飛ばすためだった。不適当な言葉だった」と釈明した。2021年6月18日の会見では、特定のベンチャーへの発注を指示したとの報道を否定した。

音声データの公開で潔白を証明するとした平井卓也デジタル改革相
音声データの公開で潔白を証明するとした平井卓也デジタル改革相
(撮影:日経クロステック)
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 具体的には、発注を指示した先として名前が挙がったAI(人工知能)ベンチャーのACES(東京・文京、エーシーズ)について、平井大臣は「私も職員もその名前を言っていない。何度も音声データを聞き直して確認した」とした。自らの言動の正しさを証明するとして平井大臣は2021年6月22日午後に、会議を録音した音声データを報道された内容を包含する形で公開する予定だ。

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 平井大臣は理由を明らかにしなかったものの、この会議で「あること」に腹を立てていたと認めている。しかも平井大臣が「叱責」した幹部職員の1人はNECなどの政府IT発注に関与していなかった。平井大臣が声を荒らげた意図は何だったのか。ベンチャーへの発注指示は本当になかったのか。仮にあったとすれば法律上の責任は生じるのか。発言の真意と影響を読み解く。

顔認証を用いた入退室ゲートの発注は存在せず

 発言は、2021年4月7日、平井大臣が所管する内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下IT室)で開かれた定例会議のものだ。同会議には平井大臣と「十年来信頼する」(平井大臣)職員2人を含む少数の職員が参加し、さらにビデオ会議を通じて数十人の職員も参加していた。

 ベンチャーへの言及は、2021年9月に発足するデジタル庁の「入退室ゲート」の案件に関するものだ。平井大臣は入退室ゲートで導入を検討する顔認証機能について、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授の名前を挙げて、「松尾先生に言って一緒にやっちゃってもいいよ」と発言した。週刊文春は、平井大臣がその発言に続いて「松尾教授が設立を支援したAIベンチャーであるACESへの発注を指示した」旨の発言をしたと報じた。

 IT室の関係者によれば、2021年4月当時、デジタル庁の新庁舎で顔認証機能を導入する検討を実際に進めていた。しかし、デジタル庁発足に先だって、IT室が2021年6月に新オフィスの「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京・千代田)に入居することが決まると、顔認証機能の導入検討がいったんストップした。IT室は入退室ゲートについて、「東京ガーデンテラス紀尾井町の既存施設をそのまま使っている」と話す。

案件が実在しなければ「官製談合」には当たらず

 平井大臣は否定しているが、大臣が特定企業の技術力を会議中に褒めることは法的に問題があるのか。週刊文春は識者のコメントを引いて「その時点で、特定の者を希望する旨の意向を教示・示唆し、それを発注機関の職員が共有したことになる。官製談合防止法違反の疑いが強い」と報じている。2021年6月18日の野党合同ヒアリングでも野党議員がIT室に対してその疑いを追及した。