小売り大手のイオンリテールがデジタル技術を駆使した次世代店舗「スマートストア」の展開を加速する。2021年6月8日、同社初の「スマートストア」を開店。これまで実験してきたDX(デジタルトランスフォーメーション)の仕組みを詰め込んだ。AI(人工知能)カメラから得られる来店客の購買行動や販売データなどを組み合わせて、接客の向上や売り上げ拡大、食品ロス低減などに取り組む。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」。埼玉県川口市の「イオンスタイル川口」にあるベビーカー売り場。夫婦が売り場に並ぶ商品を見ながら話し込んでいると、従業員が自然に声をかけて相談に乗った――。量販店などの売り場でよく見る光景だが、イオンスタイル川口の場合は声かけに至るまでの過程にAIを使った新たな試みが隠れている。
イオンリテールはイオンスタイル川口に計149台のWebカメラを設置した。食品を扱う1階に78台、生活雑貨などをそろえる2階に41台、衣料品や子ども向け商品を販売する3階に30台だ。富士通のAI映像解析サービス「Fujitsu Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance」を使って、Webカメラで撮影した映像を解析している。
売り場で考え込む、商品に手を伸ばす、商品の前で会話する……。同サービスを使うと、映像内の客の行動を検知できる。同社は映像解析システムと店員のインカムを連動させて、客の行動に応じた接客を店員へ自動的に指示できるようにした。ベビーカー売り場の例では客が一定時間特定の売り場を見ていた場合にインカムで従業員に指示することで、客のそばに従業員がいない場合でも販売機会を逃さず接客できるようにしている。
関東のある店舗のベビーカー売り場で試験運用したところ、売り場に来た客の購入率がAI映像解析を導入する前の2.3~2.5倍に伸びた実績もあるという。イオンリテールの山本実執行役員システム企画本部長は今後、家具売り場でマットレスに寝転がったりソファに座ったりした時に従業員にアラートするなど「商品ごとにどんな購買行動を検知するのが効果的かを検証したい」と展望を語る。
富士通のAI映像解析サービスを使えば、混雑前に入店制限やレジ応援の措置をとれる。さらに同サービスは来店客の体格や服装などの特徴から、年代を類推する機能も備える。具体的には0~9歳、10~19歳、20~39歳、40~59歳、60歳以上の5つに分類できる。この機能を活用して、未成年への酒類販売を防ぐといった取り組みも進める。