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 カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)達成に向けた世界的なエネルギー需要の転換によって、石油業界に変革の波が訪れている。既存ビジネスモデルからの転換は難易度が高いが、一方で順位変動を狙える好機ともいえる。出光興産常務執行役員で技術戦略を統括する中本肇氏は、脱炭素化への燃料戦略としてバイオ燃料や合成燃料、さらには二酸化炭素(CO2)フリー水素やアンモニアに商機を見いだす。

(聞き手は窪野 薫、近岡 裕=日経クロステック)

中本 肇(なかもと・はじめ) 。出光興産常務執行役員。1961年生まれ。山口県出身。1984年、早稲田大学商学部卒業後に出光興産入社。 販売、原油・石油製品のトレーディング、財務・経営企画業務への従事を経て、電子材料部門・リチウム電池材料部門の部門長を務めた。2018年より上席執行役員。2020年4月より現職。技術戦略、電子材料、アグリバイオ、リチウム電池材料、知財・研究を管掌。(撮影:日経クロステック)
中本 肇(なかもと・はじめ) 。出光興産常務執行役員。1961年生まれ。山口県出身。1984年、早稲田大学商学部卒業後に出光興産入社。 販売、原油・石油製品のトレーディング、財務・経営企画業務への従事を経て、電子材料部門・リチウム電池材料部門の部門長を務めた。2018年より上席執行役員。2020年4月より現職。技術戦略、電子材料、アグリバイオ、リチウム電池材料、知財・研究を管掌。(撮影:日経クロステック)
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政府が発した2050年カーボンニュートラル宣言をどう捉えましたか。

 「好機が到来した」、当社はこう考えています。私自身、最近は脱炭素関連の業務が全体の中でも高い割合を占めるようになりました。どの領域に注力するかで社会に与える影響も大きく変動します。需要の変化をうまく捉えられるように技術戦略を検討する毎日です。

 人類が歩んだ歴史を振り返ると、エネルギー転換はこれまで繰り返し起こってきました。石炭から石油、あるいはガスなど、転換の引き金はいつの世も経済合理性と利便性です。つまり、より安く、より便利なエネルギーに産業や個人が恩恵を感じること。エネルギー転換の理由はこれに尽きます。

 しかしながら、昨今のカーボンニュートラルに対する世界的な動きは従来と大きく異なります。経済合理性や利便性だけではない。その点を肝に銘じておかないと、技術戦略を打つ際も大きな間違いを起こします。

 否定的に言っているのではなく、政府による政策誘導を含めて考えなければいけないということです。経済合理性や利便性の点で有力な技術ができたからといって、それだけではカーボンニュートラルはとても達成できません。

日本では水素をエネルギー利用する動きが活発化しています。

 水素は有望なエネルギーとして当社も研究開発を続けています。最大の課題はやはりコストです。現実問題として、日本で水素の大量製造・大量消費を実現しようとしても経済合理性の観点から難しい。毎日のように水素関連の報道はありますが、それらの9割以上は海外由来の水素を使ったもの、あるいは想定したものと思われます。

 現在、水素関連の取り組みの大部分が「ブルー水素」でしょう。これは、化石燃料由来を水素とCO2に分解する際、CO2を大気放出する前に井戸元で捕まえ、埋め戻し取り除くことで水素を得ます。

 CO2を取り除いているのだから、そこから分離・製造する水素は「カーボンフリー」だという考え方です。どうしても化石燃料が多く採れる国や地域が有利になり、そこから離れて製造することは難しい。そういった意味で日本は不利な面も多いのです。

 もう1つ、ブルー水素の先にあるのが「グリーン水素」です。再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来の電力を使って水を電気分解することで水素を得る方式です。資源の有無には縛られませんが、今度は再エネ価格の課題が発生します。

 再エネの軸である太陽光発電の場合、日照時間が長く、広大な土地を有するオーストラリアや中東にコスト競争力で勝てません。それ故に、グリーン水素も多くが海外由来になってしまいます。

日本で水素を地産地消するのは難しいのでしょうか。

 大規模かつ安価なグリーン水素を得るのは日本だけでは難しく、海外からの調達に頼らざるを得ないと考えています。一方、欧米では都市ごみや廃プラスチックから水素などの有用物を得る技術実証が進んでいます。