全3380文字

 冷凍食品輸送でのドライアイスの代替を目指す――。カーボンニュートラル(炭素中立)の実現を目標に二酸化炭素(CO2)排出削減に産業界がアクセルを踏むなか、シャープが新たな挑戦に乗り出している。同社は2021年5月24日、冷凍輸送時の蓄冷材として活用できる、融点が-22℃の「適温蓄冷材」を開発したと発表した。

内容量500gの蓄冷材。色素を添加した右側が今回開発した融点-22℃の蓄冷材。パッケージの寸法は14cm×22cm×2.1cm
内容量500gの蓄冷材。色素を添加した右側が今回開発した融点-22℃の蓄冷材。パッケージの寸法は14cm×22cm×2.1cm
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 現在、EC(電子商取引)での冷凍食品の宅配や、BtoBにおけるレストランなどへの食材配送では、保冷にドライアイスが使われている。国内ではドライアイスの年間消費量は30万トン強で、そのうち食品保冷は約8割を占めるという。ところが、ドライアイスは近年、原料となる工業用のCO2の不足などによって夏場を中心に品薄となる傾向が続いており、排出削減への機運の高まりもあって、冷凍輸送の現場ではドライアイスに代わる蓄冷材が求められている。

 適温蓄冷材は、シャープが液晶ディスプレーの開発で培ってきた液晶の状態が変化する温度(相転移温度)を制御する技術を応用している。同材料は、水が主成分でありながらそこに様々な物質を配合することで、氷の相転移温度を所定の温度に制御しつつ、固体と液体が同時に存在する相転移の間は一定の温度に保つ材料である。これまでの同社の実験で、-24℃~+28℃の範囲で特定の温度に一定時間制御できることを確認している。実際、それらのうちからいくつかの融点の材料を商品化している。例えば20年8月にはパルシステム生活協同組合連合会が青果の輸送時の品質劣化などを防ぐために、融点+12℃の同材を全面採用することを発表した1

*1 従来は、主成分が水で融点が0℃前後(-1~+1℃)の蓄冷材を使っていた。この蓄冷材が、配送用の箱(通い箱)の中で青果と直接触れると、青果の温度が下がって凍結や変色といった低温障害が発生し、傷んでしまうという課題があったという。
適温蓄冷材は液晶が真冬のスキー場でも固体化せず、真夏の海岸でも液体化しないように相転移温度を制御する技術を応用することで、主成分を水としながら-24℃~+28℃の範囲内で所定の温度に制御できる
適温蓄冷材は液晶が真冬のスキー場でも固体化せず、真夏の海岸でも液体化しないように相転移温度を制御する技術を応用することで、主成分を水としながら-24℃~+28℃の範囲内で所定の温度に制御できる
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 今回開発したのは、融点が-22℃、凝固点が-24℃付近の蓄冷材で、対象物を冷凍食材の保冷に適している-20℃付近の温度に一定時間保つことができるという。「国内で食品保冷向けに使われているドライアイスの3~4割を代替できる可能性がある」。開発を率いる内海夕香氏(SAS事業本部国内SA事業部PS企画開発部課長 兼 研究開発事業本部スマートライフ開発センター所長)は、こんな“野望”を掲げる。これが実現すれば大きな市場をつかめるわけだが、実は同氏は当初、適温蓄冷材で融点がこの温度帯のものを開発すべきかどうか悩んでいたという。

 「正直に言って、当社技術の最大の特徴は水を主成分としながらプラスの温度であっても凍らせて一定温度に保てる点にある。融点がマイナスの蓄冷材は他社が既に商品化しているし、入り込める余地があるかを長く考えていた」(同氏)