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 「100年に一度の変革期」――。自動車産業を取り巻く環境は一変し、次の100年に向けた熾烈(しれつ)な技術競争が始まっている。中でも電気自動車(EV)の開発は特に活発で、基幹部品である2次電池には巨額の投資が集中する。石油元売り大手の出光興産は、次世代電池の代表格である全固体電池をめがけて固体電解質の研究開発を続ける1社。2021年夏に小型量産設備を用いた製造を始める。常務執行役員で技術戦略を統括する中本肇氏に動向を聞いた。

(聞き手は窪野 薫、近岡 裕=日経クロステック)

中本 肇(なかもと・はじめ) 。出光興産常務執行役員。1961年生まれ。山口県出身。1984年、早稲田大学商学部卒業後に出光興産入社。 販売、原油・石油製品のトレーディング、財務・経営企画業務への従事を経て、電子材料部門・リチウム電池材料部門の部門長を務めた。2018年より上席執行役員。2020年4月より現職。技術戦略、電子材料、アグリバイオ、リチウム電池材料、知財・研究を管掌。(撮影:日経クロステック)
中本 肇(なかもと・はじめ) 。出光興産常務執行役員。1961年生まれ。山口県出身。1984年、早稲田大学商学部卒業後に出光興産入社。 販売、原油・石油製品のトレーディング、財務・経営企画業務への従事を経て、電子材料部門・リチウム電池材料部門の部門長を務めた。2018年より上席執行役員。2020年4月より現職。技術戦略、電子材料、アグリバイオ、リチウム電池材料、知財・研究を管掌。(撮影:日経クロステック)
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全固体電池用の固体電解質の開発状況を教えてください。

 カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の流れを受けて2次電池の開発競争は激しさを増しています。その中で、当社は独自技術を用いて全固体電池用の固体電解質を開発しました。新型コロナウイルス感染症の影響もあって着工はやや遅れましたが、21年夏に主力の千葉事業所(千葉県市原市)で小型量産設備を用いた製造を始めます。

 供給する電池メーカーや自動車メーカーはまだ明かせませんが、日本勢に限らずワールドワイドで選択肢はあります。環境対応として、全固体電池を搭載したEVの開発計画は想定よりも5年ほど前倒しになっている印象です。特に海外勢の動きが速い。この点には日本企業として危機感を持っています。

 全固体電池は、リチウムイオンが動く電解質に固体の材料を使います。電極は変更せずに電解液とセパレーターを全て取り去り、代わりに固体の電解質を組み込みます。有機溶媒を含む電解液を使う現行のリチウムイオン2次電池に比べて発火しにくく安全性が高い。また、このことから電池用の冷却システムを最小限にできますので、EVの軽量化にも貢献します。

 さらに、現行のリチウムイオン2次電池には適用できなかった高性能な電極材料を用いることで、電池セルのエネルギー密度を飛躍的に高められます。EVの課題のひとつである航続距離を延ばしやすいので、世界中の電池メーカーや自動車メーカーから問い合わせがあるほど需要が拡大しています。

出光興産は21年夏に小型量産設備を用いた固体電解質の製造を始める。写真は全固体電池に組み上げた場合の試作品。(出所:出光興産)
出光興産は21年夏に小型量産設備を用いた固体電解質の製造を始める。写真は全固体電池に組み上げた場合の試作品。(出所:出光興産)
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どの部分に出光興産の強みがありますか。

 固体電解質の材料技術に強みがあります。一般に全固体電池の電解質は、硫化物と酸化物、そしてポリマーの3種類の選択肢がありますが、当社はEV向けに高容量・高出力を発揮しやすい硫化物を選択しました。硫化物系固体電解質の原料となる硫化リチウムの量産技術を持っているためです。