全2365文字
PR

 東京オリンピック大会の開幕が2021年7月23日に迫る中、政府が「オリパラアプリ」調達プロセスの検証に乗り出す。平井卓也デジタル改革相は2021年7月6日の会見で、外部の有識者を招いてオリパラアプリを専門に調査・検証する組織を同日に発足させると発表した。

 平井大臣はその理由を、週刊誌など一連の報道に加えて、「法的には問題がなくても調達手続きが適切だったのか検証すべき点がある」と説明する。デジタル庁設置に先行して政府が発足させる予定のコンプライアンス委員会に調査結果を報告し、デジタル庁での徹底した透明・公正なIT調達改革につなげるという。

 オリパラアプリの正式名称は「統合型入国者健康情報等管理システム(OCHA)」。同アプリを巡っては、発注費の減額交渉に関する内部会議の音声データが外部に流出したほか、一部の週刊誌は平井大臣や担当する職員らに対する疑惑も報じた。何より、一般競争入札を行いながら選定プロセスの期間が極めて短く、競争がない1社応札でベンダーが決まった点が疑念を招いている。

 平井大臣はデジタル庁ではベンダー選定の公正さやコストの適正さなどで国民の疑いを招かないよう、政府IT調達のプロセスを徹底して透明にすると断言している。オリパラアプリの過程がどう検証されるかは、デジタル庁における政府IT調達改革の本気度を占う事案になる。

「アプリ開発は知らされていなかった」と平井大臣

 第一に検証すべき疑念は、一連のベンダー選定プロセスにおける平井大臣の関与の仕方だ。オリパラアプリは平井大臣が所管する内閣官房IT(情報通信技術)総合戦略室が発注を担当した。一般競争入札を実施したものの、入札公告から応札までが10日あまりと極めて短かったこともあり、NTTコミュニケーションズが代表幹事を務める5社の企業連合だけが応札し、2021年1月14日に発注先として選ばれた。

 週刊文春は平井大臣と内閣官房IT総合戦略室の幹部職員がNTTと会食した事実をもって、平井大臣が接待相手であるNTT子会社のNTTコミュニケーションズの選定に関わった疑いを報じている。実際に平井大臣がアプリの調達でNTTコムの選定に関与したかどうかは検証されるべきだといえる。大臣も調査組織は自らの会食や関与も含めて検証するとしている。

減額されたオリパラアプリ発注費の機能ごとの内訳。NTTコミュニケーションズはアプリの開発・運用やプロジェクト管理などを担当。平井卓也デジタル改革相は減額の幅はNECよりも多いと指摘している。
減額されたオリパラアプリ発注費の機能ごとの内訳。NTTコミュニケーションズはアプリの開発・運用やプロジェクト管理などを担当。平井卓也デジタル改革相は減額の幅はNECよりも多いと指摘している。
出所:内閣官房
[画像のクリックで拡大表示]

 この点に関する平井大臣のこれまでの主張は一貫している。疑惑が報じられる前の2021年1月末の国会で、オリパラアプリ開発についてIT室の職員から報告を受けたのはベンダー選定より後の2021年1月中旬以降だったと答弁している。週刊文春がNTTとの会食を報じた幹部職員である向井治紀IT室長代理も、本人を含めて複数の関係者が日経クロステックの取材に対して、向井氏はアプリ調達の担当外だったと証言している。

 平井大臣は疑惑報道の前から発注方法に疑問を投げかける趣旨の発言をしていた。週刊文春がNTTと平井大臣が最後に会食したとする2020年12月4日はちょうどアプリの開発方針が決まった直後だが、2021年1月末の国会答弁をみる限り、「(この時点で)アプリ開発の事実を知りようがなかった」という平井大臣の主張に明らかな矛盾はないように見える。

 IT室でアプリ調達業務を率いたのは、慶応義塾大学環境情報学部教授で、IT室の業務も兼務する神成淳司IT室長代理だった。担当職員も含めた複数の職員の証言によると、神成教授をリーダーとする10人弱のチームがアプリ調達を担当している。

 流出した音声データで、アプリ発注金額の減額交渉に関して、平井大臣が叱責した職員の1人が神成教授だった。音声データを公開した際に、「何の役にも立たないものを作ったら、お前の判断も悪いから。そんな仕事、受けるな。あんたの責任になる」との大臣発言の相手が神成氏だったことをIT室が明らかにしている。

 調査組織は音声データが一部マスコミに流出した経緯も検証する見通しだ。

内閣官房IT総合戦略室が調達したオリパラアプリ「OCHA」の起動画面
内閣官房IT総合戦略室が調達したオリパラアプリ「OCHA」の起動画面
[画像のクリックで拡大表示]

 検証すべき第二の疑念は、入札公告から応札期限が10日あまりと極めて短期だった一般競争入札は適切だったのか。加えて発注ベンダーとの関係では、アプリ調達を担当した神成教授ら職員と企業連合に参加するITベンダーと関係も検証テーマに浮上する可能性がある。これが第三の疑念だ。