手のひらサイズのボール状のコケに6本の足が生えている。光を当てると、きぃきぃと音を立て、コケの固まりが光を求めてモゾモゾと動きだした――。ちょっと不気味なこの物体、実はパナソニックが開発した新たなロボットだ。同社は2021年7月6日、全身をコケに覆われたロボット「UMOZ(ウモズ)」を報道陣に公開した(図1)。
写真のUMOZが全身にまとっているコケは、「スナゴケ」と呼ばれる日光を好む種。UMOZは照度や湿度センサーなどを搭載する。これらセンサーを使い、周囲の環境をセンシングし、コケが好む環境に向けてゆっくりと移動する仕組みだ。スナゴケのような日光を好む種の場合、UMOZは光を求め、照明に向かってゆっくりと移動する。
「現実世界は1つだが、その見え方は生物ごとによって異なる。コケという生物だったとしても、その種類に応じて特徴も異なる」とパナソニックマニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室室長の安藤健氏は語る(図2)。
パナソニックがコケをまとったロボットで狙うのが、「人と自然の共生」である。コケの気持ちになって動くロボットを介して、人間はコケが周囲の環境をどのように捉えているのかを直感的に判断できるようになる。
UMOZは、パナソニックが19年に開設したロボティクスや人間拡張技術などによる新領域開拓を目指す研究組織「Aug Lab(オーグ・ラボ)」と、創作支援サービスを手掛けるロフトワーク(東京・渋谷)が共同研究で生み出した。Aug Labは、「人間の幸福(Well-being、ウェルビーイング)」を高めることを目的に掲げる。UMOZも、自然との共生によってウェルビーイングを高めていく狙いがある。
コケの気持ちで照明が変化
パナソニックとロフトワークは、コケを利用した照明装置「MOSS Interface(モス インターフェース)」も公開した(図3)。湿度センサーを囲うようにコケを植えており、霧吹きなどで湿度を上げると照明が明るくなる。ある意味、コケの気持ちで照明の明暗が変化する仕組みだ。
これらのコケを利用した開発品は、あくまで試作品であり、すぐさま商品化につながるわけではない。ただ商品化の1つの方向として、子ども向けのプログラミング教育分野が考えられるという。例えば、コケの気持ちを考えながらロボットの動作をプログラミングするといったSTEAM(科学・技術・工学・芸術・数学、スティーム)教育だ。