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 加湿器のミストに乗せてナノ粒子を放出し、それを基板上に堆積させて、薄膜を形成する──。ニコンと東北大学多元物質科学研究所教授の蟹江澄志氏は「ミストデポジション法」と呼ぶ新しい製膜法を考案した。この製膜法を使うと、従来技術の1つであるスパッタ法と比べて消費エネルギーを減らせるほか、樹脂などの耐熱性が低い基板にも製膜できる。ニコンは、製膜に使うナノ粒子のサンプル提供や小型製膜装置の提供を今後開始する予定だ。

 新しい製膜法の手順はこうだ。まず、粒径数十nm程度の原料粒子を室温の水に分散させて溶液を得る。続いて、その溶液に数MHzの超音波を印加して直径5μm程度の霧(ミスト)状にした後、送風によってミストを基板上に堆積させる。最後に基板を加熱して水分を飛ばすと、原料粒子のみが蒸着して薄膜を得られる仕組みだ。水を超音波で霧化する技術は加湿器で一般的に使われているものと同じである。

ミストデポジション法は加湿器と同じ原理でミストを放出
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ミストデポジション法は加湿器と同じ原理でミストを放出
(a)ミストデポジション法で薄膜を製膜する仕組み。直径約5μmのミストに40nmのナノ粒子材料を分散させて、基板上に蒸着する。図中の「ca.」は「約」の意。(b)ミストデポジション法の装置。3つのユニットから成る。4つの超音波発振器で溶液を霧化する「ミスト生成ユニット」と、均一な薄膜形成の妨げとなる巨大なミストやほこりなどを取り除く「ガストラップユニット」、基板上にミストを堆積させる「蒸着ユニット」である。(出所:ニコンの図中の英語を日経クロステックが一部翻訳)

 新しい製膜法の特長は2つある。1つは、製膜時のエネルギーが小さい点だ。プラズマを使うスパッタ法などの既存の製膜法は、基板を真空チャンバー内に閉じ込めて製膜する必要がある。それに対し、新しい製膜法は真空ではなく空気中で製膜する。そのため、真空装置の稼働分のエネルギーを節約できる。

 もう1つは、多様な基板に製膜が可能な点だ。新しい製膜法は基板の加熱温度が150度(℃)と、200℃以上のスパッタ法と比較すると低い。そのため、樹脂製基板のように耐熱性が低い基板にも使える。ニコンは、「ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)などを樹脂製基板として検討している」と話す。

 現時点では最大でA4判(210×297mm)までの大きさの薄膜を作れる。平面状だけではなく、レンズの表面など曲面状の基板にも製膜することが可能だ。ニコンは、レンズ曲面への製膜の他、ロール状の基板に効率的に製膜するロール・ツー・ロール(Roll to Roll)工法も視野に入れ、量産に向けて研究開発を続けている。