全2795文字
PR

 経済産業省と厚生労働省、文部科学省の3省が2001年から発刊している「ものづくり白書」。ものづくり基盤技術の振興に対して講じられた施策を、3省が共同で報告する年次報告だ*1。ものづくりに関わる産業の現状と、今後の課題をまとめている。

*1 閣議決定を経て国会に提出する。「2021年版 ものづくり白書」は2021年5月28日に閣議決定されている。
図1 社会情勢の変化のうち事業に影響があるもの
図1 社会情勢の変化のうち事業に影響があるもの
8割が「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」が事業に影響を与えたと回答した。 (出所: 21年版ものづくり白書、調査は三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
[画像のクリックで拡大表示]

 21年5月28日に公表された、「2021年版 ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」(以下、白書)では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による社会の変化や不確実性の増大などを踏まえ、日本の製造業が生き残るための方策を提起している。

 21年版において中でも特に強く打ち出しているのが「サプライチェーンの強靭(きょうじん)化」だ*2。白書では、大地震のような「局所的な被害」ではなく、新型コロナの感染拡大による「世界全体に予測不可能な形」でもたらされた、これまで直面した経験のない被害に対し、「サプライチェーンの脆弱さが顕在化した」と指摘する。

*2 白書ではこの他、カーボンニュートラル対策やデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みの必要性などを訴えている。

 白書を担当した経済産業省製造産業局総務課ものづくり政策審議室長の矢野剛史氏は、「新型コロナの感染拡大を契機に、デジタル技術を活用したサプライチェーンの構築に投資すべきだと考えた」とその狙いを語る*3

*3 矢野氏の肩書は取材時。21年7月8日付で愛知県庁経済産業局長に就任。

7割の企業が「新型コロナが事業に影響」 

 白書は、企業の業績動向やレジリエンス(各企業の危機的な状況や困難な問題に直面した際、柔軟に対応して態勢を立て直したり、元の状況に戻したりする力)についての調査結果を基にサプライチェーン強靱化を論じている。まず企業の業績動向からみていこう。

 営業利益の推移をみると、20年は製造業全体では8.6兆円と、17年の約半分にまで減少している点に言及。経産省が20年12月、製造業の企業を対象に実施したアンケート調査*4の結果では、20年の売上高と営業利益はいずれも、7割が前年同時期(19年12月)に比べて「減少」と回答しており、今後も企業は設備投資を控えるといった慎重姿勢が続くとの見解を示す。

*4 大手データベース会社のデータを用いて、従業員100人超の製造業は全てを対象とし、従業員100人以下の企業は機械系製造業を中心に抽出。全2万5000 社を対象に実施。有効回答は4005件。

 背景にあるのは、先行きの不透明感だ。アンケート調査結果では、「事業に影響があるもの」として、8割が「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」を挙げた(図1)。その他、「米中貿易摩擦」(36.1%)など、「大規模な自然災害」(33.6%)以外にも様々な情勢の変化を懸念している。

 自然災害はもちろんだが、感染症の感染拡大や国家間の衝突は、その発生や変化を事前に想定するのが難しい。そこで問われるのがレジリエンスだ。