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「トヨタは痛くもかゆくもない」

エンジン車はもちろん、HEVの販売を禁じる今回の欧州委員会の提案は、トヨタ自動車に大打撃をもたらすのではありませんか。

藤村氏:トヨタ自動車は全く動じないのではないか。トヨタ自動車はこれまで環境負荷軽減と顧客ニーズの両方を見ながらパワートレーンに関して全方位戦略で開発を進めてきたからだ。高効率エンジン車もHEVもPHEVもFCVも全て開発に力を入れている。どのような車種規制になろうと対応できるため、本心では痛くもかゆくもないと思っているだろう。

 ただ、トヨタ自動車は「お客様第一」でクルマづくりを行っている。EVのラインアップが少ないのは事実だが、それは顧客の望む声が乏しいからだ。今回の欧州委員会の提案は明らかに政策主導であって、顧客ニーズを反映したものではない。その点について、「お客様に負担をかけるようなクルマへの誘導をするな」という思いはあると思う。

EV「TOYOTA bZ4X」のコンセプト車両
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EV「TOYOTA bZ4X」のコンセプト車両
2021年4月の中国・上海モーターショーにトヨタ自動車が出展した。同社が展開するEV「TOYOTA bZ」シリーズの第1弾となる。(写真:トヨタ自動車)

「トヨタは動じない」とのことですが、世間には「トヨタ自動車はHEVに強みはあるものの、EVでは出遅れている」という印象が根強くあるようです。

藤村氏:最近は少しずつ世間、特にメディアにも理解が進んだように感じるが、トヨタ自動車はEVを量産する技術を既に確立させている。EVの基幹部品である駆動用モーターとインバーターおよび2次電池は、全てHEVの基幹部品であり、それらの技術とノウハウは、これまでの20年間にわたるHEVの量産を通じて社内に積み上がり、改良も日々進んでいる。例えば、VWのEV「ID.3」が使っているモーターの巻き線形状なども、トヨタ自動車を手本にしている。技術とノウハウは質も量も共に世界一と言える。HEVを世界で最も多く売ってきたのはトヨタ自動車だからだ。

 設備投資に準備は多少かかるにしても、本気でEVを展開しようと思えばいつでも可能だ。実際にEV向けモジュラーデザイン「e-TNGA」も進めているし、トヨタ自動車は2025年までに「TOYOTA bZ(トヨタ Beyond Zero)」シリーズの7車種を含む15車種のEVを世界の各市場で投入する計画を打ち出している。

 EVにとって最重要部品である2次電池にしても、現行のリチウムイオン2次電池よりもエネルギー密度が高く、次世代の2次電池として期待されている全固体電池の開発で世界の先頭を走っているのは、トヨタ自動車と東京工業大学のグループだ。既に実証実験の段階にある。

 「EVで出遅れている」という評価は正しくない。「HEVにこだわりすぎていて、EVを出したくないのだ」という意見も同じだ。繰り返すが、あくまでもEVを望む声が少なかったために、顧客ニーズを大切にするトヨタ自動車としては、これまでEVの開発にあまり力を入れてこなかった、というのが真相だ。補助金なしでEVが売れるようになるのは、前述の課題が払拭できてからの話で、まだ時間がかかる。補助金をこれでもかと出してEVに誘導しても、近いうちに頭打ちになることが容易に予想できる。