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欧州の自動車メーカーが焦るトヨタの回答とは

欧州委員会の提案が正式に法制化されたら、エンジン車を販売できないことはもちろんとして、現在欧州市場でもHEVが売れているトヨタ自動車は、次にどのような車種を販売していくのでしょうか。

藤村氏:そのときは、「そうですか、HEVも売れないのですね。では、当社は2035年以降、欧州市場ではPHEVを6割、FCVとEVを合わせて4割で対応します」と言えばよい(既にトヨタ自動車は、2030年に欧州で100%電動化し、その内訳についてHEVとPHEVを60%、EVとFCVを40%と表明している)。この言葉に欧州の自動車メーカーは焦るだろう。その結果、恐らく欧州委員会はトーンダウンすると思う。

 ドイツの3大自動車メーカーを見ると、EVがPHEVより売れているのはVWのみ(2020年:EV7%、PHEV4%)。Daimler(6%、15%)やBMW(5%、12%)はPHEVの方が売れている。PHEVの方がより現実的だと考えているからだろう。そこにトヨタ自動車が本格的にPHEVに乗り込めばどうなるか。トヨタ自動車のハイブリッドシステムは燃費の優れるシリーズ・パラレル方式。これに対し、他社は燃費の劣るパラレル方式だ。従って、トヨタ自動車は最も燃費性能の高いPHEVを欧州市場に投入できる。ハイブリッドシステムが優れていれば、それをベースとするPHEVのポテンシャルも高くなる。

 それだけではない。低コスト化でもトヨタ自動車は高い競争力を誇る。前述した全固体電池は、実はEV向けの40k~60 kWhという大容量ではすぐに対応することは難しいが、PHEV向けの10kWh強程度であれば、2025~30年にかけて実用化は可能とも考えられる。これを利用すれば、将来的にはPHEVの価格を現行のHEV並みにまで下げることも不可能ではない。HEVの2次電池容量は1kWh程度で、PHEVは12kWh程度。その差は10kWh程度で、現時点でも電池コストの差は30万円程度しかない(詳細には、プラグインや温度制御システムなどの原価低減も必要)。

 なお、EVで60kWhの2次電池を家庭で満充電しようとすると、200V電源でも20時間かかる。PHEVの12kWhなら4時間で充電できるし、100V電源でもなんとか対応可能だ。

 そして、もちろんこのPHEVはグリーン燃料とセットだ。ベースがシリーズ・パラレル方式だから、グリーン燃料の消費量も大きく抑えられる。このセットが将来的に欧州市場における最適解になるのではないか(ただし、あくまでも再生可能電力化が急速に進み、クルマ向けの電力供給量も十分にあることが前提)。

FCVについてはどうでしょうか。

藤村氏:トヨタ自動車は、FCVも将来的に現行のHEV並みの価格まで下げることを目標としているのではないかと見ている。実際、トヨタ自動車は2020年12月に発売したFCVの新型「MIRAI(ミライ)」において、燃料電池システムのコストを前モデルの1/2程度とした。2025年ぐらいには1/4程度まで低コスト化すると表明している。1/4まで下がれば、今のHEV並みの価格も視野に入ると試算できる。

 というのも、トヨタ自動車はFCモジュールの外販戦略を進めているからだ。FCモジュールは、空気供給や水素供給ポンプ、配管系、制御系などの関連部品をFCスタックと組み合わせて1つのパッケージにしたもの。小型・大型トラックやバス、鉄道、船舶、フォークリフト、定置発電機などの用途に向けて売り込む。これにより、量産効果が働いてFCモジュールのコストを下げることは可能だ。

どうやら欧州委員会の今回の提案にも、トヨタ自動車は動じないようです。仮の話ですが、欧州委員会がどのような提案をすれば、トヨタ自動車は慌てるのでしょうか。

藤村氏:考えられるとしたら、バイオ燃料あるいはe-Fuelとセットでもエンジン車からHEV、PHEVまで全て販売禁止という提案だ。慌てるというよりも、あきれるといった方がよいと思う。

 しかし、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を実現できるクルマの販売を禁じるというのは、欧州の自動車メーカーの首を絞めることにもつながる。従って、さすがに欧州委員会もこんな提案はできないだろう。冒頭で述べた通り、欧州委員会の最終的な目標はCO2の削減であるはず。本来あるべきCO2削減戦略から外れるものは、いずれは破綻することを欧州委員会は認識する必要がある。

藤村俊夫(ふじむら としお)
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、元トヨタ自動車
藤村俊夫(ふじむら としお) 1980年に岡山大学大学院工学研究科修士課程を修了し、トヨタ自動車工業入社。入社後31年間、本社技術部にてエンジンの設計開発に従事し、エンジンの機能部品設計(噴射システム、触媒システムなど)、制御技術開発およびエンジンの各種性能改良を行った。2004年に基幹職1級(部長職)となり、将来エンジンの技術開発推進、将来エンジンの技術シナリオ策定を行う。2011年に愛知工業大学工学部 機械学科教授として熱力学、機械設計工学、自動車工学概論、エンジン燃焼特論の講義を担当。2018年4月より愛知工業大学工学部客員教授となり、同時にTouson自動車戦略研究所を立ち上げ、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ、コンサルティングや講演活動を行う。 活動(研究歴、所属学会、著書など): 自動車技術会 代議員/論文校閲委員。2001年「ディーゼル新触媒システム(DPNR)」で日経BP賞技術賞エコロジー部門賞受賞、2003年「ディーゼルPM、NOx同時低減触媒システムDPNR」で日本機械学会技術賞受賞