全2046文字
PR

 日本経済団体連合会(経団連)は産業分野での数学の活用に力を入れる。「数理活用産学連携イニシアティブ」を立ち上げ、最新の数学研究動向や産学連携の事例の紹介、産業界との意見交換などを実施する。2021年7月16日にオンラインで実施した第1回会合には26社が参加した。

 第1回の会合では国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系の蓮尾一郎准教授の「メタ数学によるシステムデザイン」という講演などがあった。今後は量子技術や、データの形に着目した解析手法であるトポロジカルデータ解析、都市システムの統合・多重最適化などといったテーマを扱う予定という。情報交換にとどまらず、今後は産業界における数学人材の登用や育成策についても議論を深める方針だ。

 経団連が数学と数学人材に注目するのはAI(人工知能)やICTの土台となっているからだけではない。物事の抽象度を高めて定式化する数学的思考のできる人材が、デジタル社会に不可欠という認識がある。

 「AIなどを活用したスマート社会であるSociety5.0(ソサエティー5.0)では、全体を俯瞰(ふかん)しながら社会全体を最適化することが喫緊の課題だ」と経団連の江村克己・イノベーション委員会企画部会長は話す。そのためには「全体を見渡して事象の抽象度を高めてメタ化し、定式化する数学的な思考が重要だ」(江村部会長)。Society5.0実現へ、経団連はこれまで学界に閉じていた数学人材が産業界で活躍できるよう、様々な橋渡し策を講じていく考えだ。

Society5.0では数学をベースに定式化し社会事象を理解し、課題を解決することが重要になる
Society5.0では数学をベースに定式化し社会事象を理解し、課題を解決することが重要になる
(出所:日本経済団体連合会)
[画像のクリックで拡大表示]

 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会から続くSociety5.0では、広範囲から多様なデータを集めてAIなどで解析して社会全体の最適解を出す必要がある。情報社会では情報を活用して工場などを進化させる目的で、限定的で整った計測データを基にその工場システムの中の部分最適を追求してきた。Society5.0の実現には、そこからさらに進化させて多重・多目的の最適化を図らなくてはならないという。

 例えばスマートシティーを実現するには交通、防災、金融などの分野ごとに縦割りでデータを活用したりシステムを構築したりするのではなく、分野や組織を横断してデータを活用し新たなまちづくりを実行する必要がある。CDO(最高データ責任者)は首長や市民の「こんなまちにしたい」という政策や要望を理解したうえでデータの利活用戦略などを考える役割を担う。交通渋滞や災害などの課題を抽象化し、定式化して数学に基づいて理解することが、社会システムデザインとその最適化につながるという。

 そもそも数学は生命科学や環境科学、材料科学、物理学、化学、金融工学、社会科学など様々な学術分野における共通基盤だ。数学という共通言語があることで、分野横断的・分野融合的な研究開発が可能になる。

英国では数学者など獲得のため新たなビザのスキームを開始

 経団連が数学人材の活躍促進に乗り出す背景には、世界で激しさを増す数学人材の争奪戦がある。英国はEU(欧州連合)離脱後、2020年2月から世界最高の科学者や研究者、数学者を引き付けるための新たなビザのスキームを開始した。同時に高度な数学研究のために5年間で3億ポンド(約455億円)の政府投資を可能にした。