全2897文字
PR

 「タネ屋」を自称する種苗大手のサカタのタネだが、タネの持つポテンシャルを最大限に発揮できる環境作りにも力を入れている。ワビットと共同開発し、2021年3月に本格提供を始めた環境制御システムのソフトウエア「Arsprout Pi(アルスプラウト パイ)」もその一つ。農業の省力化を支援することで、持続可能な農業の確立への貢献を目指す。

内気象ノード(中央の白い箱)で取得したデータに基づきハウス内の環境を制御する
内気象ノード(中央の白い箱)で取得したデータに基づきハウス内の環境を制御する
(出所:サカタのタネ)
[画像のクリックで拡大表示]

 Arsprout Piは、ビニールハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度といった環境を自動的に制御する環境制御システムを、小型ボードPCの「Raspberry Pi」(ラズベリーパイ、通称ラズパイ)によって実現するソフトだ。

 そもそも植物を栽培するうえでは、温度や湿度、日射量などハウス内の様々な環境が影響する。野菜の収量を最大化するには、温度などの環境要素をモニタリングし、最適な環境が保たれるようにハウスの設備をコントロールする必要がある。

 例えば、温度が低い時にハウスの窓を閉めてヒーターをつけるといった作業が環境制御であり、これまでは農業従事者が経験と勘に基づいて行ってきた。これをセンサーとコンピューターによって自動化しようというのが環境制御システムの基本的な考え方となる。

Raspberry PiでハウスをIoT化

 環境制御システムには大きく2つの要素がある。温度や湿度、二酸化炭素濃度、日射量、土壌条件などを測定するセンサーと接続しそれらのデータを送信する「内気象ノード」と、センサーデータに基づいてヒーターやカーテン開閉装置などを制御する「制御ノード」だ。Arsprout Pi をインストールしたRaspberry Piを使うと、内気象ノードと制御ノードのそれぞれを実現できる。

 もちろん素のRaspberry Piボードだけで各ノードを構成できるわけではない。センサーと接続するための物理インターフェースなどをRaspberry Piボードに追加した内気象ノード用キットや、カーテンやヒーターなどの機器を制御するためのインターフェースをRaspberry Piボードに追加した制御ノード用キットも販売している。

 日本国内で使われている農業用センサーやハウス用ヒーターなどの多くは、制御信号が共通化されている。そのためArsprout Piを搭載した各キットを接続するだけで、既存の農業用センサーやハウス用ヒーターなどをIoT(インターネット・オブ・シングス)化できる。

クラウド上でデータの確認や分析ができる
クラウド上でデータの確認や分析ができる
(出所:サカタのタネ)
[画像のクリックで拡大表示]

 内気象ノードや制御ノードはイーサネットで接続し、パソコンやスマートフォンなどからネットワーク経由で操作する。そのためのユーザーインターフェース(UI)もArsprout Piが搭載する。また制御ノードをインターネット経由で「Arsprout クラウド」に接続すると、クラウドが提供するUIを使って各ノードを操作したり、クラウドが提供するダッシュボードからセンサーデータの分析結果などを閲覧したりできる。

既存ソフトに比べて設定を簡略化

 農業従事者がハウス内の温度を制御する場合は、Arsprout PiのUIで「9時から12時」「セ氏28度」などと入力する。これをArsprout Piでは「標準制御」と呼んでいる。Raspberry Piによって環境制御システムを構築するソフトとしては「UECS-Pi」が既に存在するが、Arsprout PiはUECS-Piよりも簡単に操作できるようにした。

 従来のUECS-Piの場合は、ハウス内の温度を制御する場合に、「28度になったら天窓を開ける」「23度になったら天窓を閉める」など多くの条件を入力し、さらにその条件がほかの条件と矛盾していないかなどを確認する必要があった。それに対してArsprout Piの場合は時間帯と温度を入力するだけなので、初心者でも使いやすい。UECS-Piと同様に細かく制御条件を設定することも可能だ。

 サカタのタネは農業従事者と接点が多く、自身もタネの研究農場を持つため、現場のニーズをくみ取りやすい。Arsprout Piには急激な温度変化を避けるために保温カーテンを段階的に開閉する機能や、光合成効率を上げるための温度補正機能などが搭載されている。こうした機能は、種苗メーカーだからこそ開発できた。

 Arsproutはもともと、ワビットが2018年に開発した環境制御システムだ。従来はノード用のソフトにUECS-Piを使っていた。サカタのタネはワビットと業務提携を結んで18年7月から共同実証実験を行い、ノード用の新しいソフトとしてArsprout Piを共同開発した。

 システムインテグレーターであるワビットと種苗メーカーであるサカタのタネのノウハウを合わせることで、農業従事者にとって使いやすいソフトが開発できたとする。なおワビットは2021年4月にスマートアグリ事業を扱う新会社アルスプラウトを設立しており、環境制御システムは現在アルスプラウト社が手掛けている。