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 エッジ機器に向けたAI推論処理ICを手掛けるスタートアップ企業の米quadric.io(クアドリック、以下Quadric)が、最初のチップを載せた評価ボードの提供を2021年6月22日に開始した ニュースリリース 。同社は16年の創業で、複数の企業から出資を受けている。そのうちの1社がデンソーのグループ会社で、半導体IP(Intellectual Property)コアの設計や開発を行うエヌエスアイテクス(本社:東京都港区)*1である。エヌエスアイテクスは、自動運転車向けのIC「エッジプロセッシングユニット(EPU)」の開発に取り組んでおり、EPUにQuadricの技術を取り込む算段である ニュースリリース

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ボードのフォームファクターはM.2 2280。白いカバーが付いたチップが、「q16プロセッサー」。4GバイトのLPDDR4型DRAMを搭載する。ホストとのインターフェースは、2レーンのPCI Express Gen4である。右下の文字「GraphSim」はアプリケーション開発向けSDK(Software Development Kit)の名称。(出所:Quadric)
ボードのフォームファクターはM.2 2280。白いカバーが付いたチップが、「q16プロセッサー」。4GバイトのLPDDR4型DRAMを搭載する。ホストとのインターフェースは、2レーンのPCI Express Gen4である。右下の文字「GraphSim」はアプリケーション開発向けSDK(Software Development Kit)の名称。(出所:Quadric)
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 Quadricの技術を採り入れている日本企業はエヌエスアイテクス以外にもある。QuadricのDaniel Firu氏(Co-founder & CPO)が紹介したのが、サイバートラスト(ソフトバンクの子会社「SBテクノロジー」の子会社)である。サイバートラストは同社のセキュリティー技術にQuadricの高速演算技術を組み入れて、エッジ向けのコンピューティング環境を整備するという ニュースリリース

 Firu氏ら3名のQuadric創業者は、いずれも米PDF Solutions(PDFソリューションズ)*2の出身である。PDF SolutionsはICの製造歩留まり向上やDFM(Design For Manufacturability)のEDA(Electronic Design Automation)ソフトウエアを開発提供している。3名はPDF Solutionsを辞めた後に米21(トゥエンティーワン)を創業し、Bitcoinのマイニング向け演算器の開発提供で成功して、Quadricを立ち上げたという。

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幹部
幹部
上の行の左から3名が共同創業者で、いずれも米PDF Solutions(PDFソリューションズ)というEDAソフトウエアベンダーの出身。3名はPDF Solutionsを辞めた後に、米21(トゥエンティーワン)と呼ぶBitcoinのマイニング用演算器の企業を立ち上げ、その後Quadricを創業した。(出所:Quadric)
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 Firu氏によれば、ユニークなのは3名の経歴だけでなく、同社のIC開発手順だという。AI処理向けのICの開発を手掛ける企業は多数あるが、ハードウエアの開発から始めるのが一般的である。一方、Quadricでは、まず、処理したいソフトウエアを徹底的に分析し、これらのソフトウエアを高速化できるハードウエアのアーキテクチャーを考案したとする。さらに、ソフトウエア開発者がハードウエアを利用しやすいように、ハードウエアの開発と並行して(むしろ、先行して)SDK(Software Development Kit)の整備に注力したという。優れたハードウエアが開発できても、それを利用するための工数が大きくては、普及が望めないからだ。

 記事の冒頭で紹介した最初のチップは「q16プロセッサー」と呼び、低い消費電力で高速な推論処理が可能だとする。50層ResNet(Residual Network)の学習済みCNN(Convolutional Neural Network)を使った画像(224画素×224画素)の分類処理では、200推論/秒(8ビット固定小数点)の性能を、2Wの消費電力で得られる、という。Firu氏によれば、市販のGPUでは同じ処理性能を得るには、消費電力は50~200Wになるとのことだった。

q16プロセッサーの実行結果例
q16プロセッサーの実行結果例
(出所:Quadric)
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