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 モーター用巻き線機の開発製造を手掛けるNITTOKUは、古河電気工業(古河電工)と共同で開発したレーザー溶接機を2021年7月に公開した(図1)。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)用モーターの生産に向け、銅線同士の溶接を効率的に実行できる。今後、レーザー光源の改良や、溶接と検査の並列実行機能、機械学習による検査機能などを組み合わせ、モーター中枢部の生産設備としてさらに生産性の向上を図る。

図1 NITTOKUと古河電工が開発したEV・HEVモーター用溶接装置
図1 NITTOKUと古河電工が開発したEV・HEVモーター用溶接装置
SC(セグメントコンダクター)方式のモーターで、銅線端部同士を効率良く溶接する。左のきょう体がレーザー光源。(出所:日経クロステック)
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 トラクション(動力)モーターをはじめ、車載機器に使うモーターの一部は、SC(セグメントコンダクター)方式の巻き線を採用するようになっている。従来のように長い被覆銅線をコア(鉄心)に巻き付ける代わりに、被覆銅線を比較的短く切って成形したものを多数本用意してコアに差し込んだ後、SCの端同士を溶接でつないで造る(図2)。

図2 SC方式のモーター
図2 SC方式のモーター
トラクションモーターの例。(出所:NITTOKU)
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 SCとして成形する前の被覆銅線の長さのイメージはモーター径を超える程度。断面が長方形の平角線を使えるため、丸線(円断面)の場合と異なって巻き線を構成する線の間に隙間ができず、効率良く磁束を得られる。さらに、巻き線がコア端部からふくらんではみ出す部分が少なくなり、すなわちモーターの出力に寄与しない部分が減って、銅線の材料を節約できる。生産自動化にも向くため「最近生産が増えつつある」(NITTOKU)という(図3、4)。

図3 SC方式で巻き線を構成したモーター
図3 SC方式で巻き線を構成したモーター
成形した被覆銅線(セグメントコンダクター)をコアに差し込んだ後、溶接でつないで巻き線にする。(NITTOKUの資料を基に日経クロステックが作成)
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図4 SC方式のモーターでの巻き線溶接部の例
図4 SC方式のモーターでの巻き線溶接部の例
被覆の端部が熱によって白くなっている。(出所:日経クロステック)
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 開発した装置は、SCの端部同士を溶接する工程に特化し、モーター1個当たりに必要な溶接を40秒程度で終え、溶接結果を画像で検査する。モーター1個当たりの溶接点数は、例えば48スロットのステーターの場合で192点。1点当たりの溶接時間は0.1~0.2秒で、従来の設備では0.3秒程度かかる場合が多かったという。SCの端部は、互いの隙間が0.7mm程度、高さ方向のずれが1.0mm程度あっても、修正せずに溶接できる(図5、6)。

図5 隙間があっても溶接可能
図5 隙間があっても溶接可能
左が0.7mmの隙間をそのままにして溶接した結果のサンプルで、右は現状の通りに隙間をなくしてから溶接した結果。(出所:日経クロステック)
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図6 高さずれや位置ずれがあっても溶接可能
図6 高さずれや位置ずれがあっても溶接可能
左は高さずれがある場合のサンプルで、1.0mm程度の高さずれも許容できる。右は位置ずれ(横ずれ)の場合のサンプル。(出所:日経クロステック)
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 溶接時間を短縮できる要因として大きいのは、レーザーの制御によりSCの端部同士に隙間や位置ずれがあってもそのまま溶接可能にしたため、SC端部同士を押さえつけて密着させたり位置を補正したりする工程を省略可能にしたこと。SC端部は、先端部の被覆をむいて並べただけでは、例えば被覆厚さの2倍に相当する隙間が自然と生じる。開発した溶接装置では、溶かしたい場所だけに高いエネルギーを与えるとともに、隙間にはレーザーが入らないようにして、余計な場所を損傷させない。

 開発した装置で想定している平角線の断面は3×1.5mm。断面位置をカメラで捕捉し、直径50μm程度の近赤外線(IR)レーザービームを、ガルバノミラーで走査しながら照射する。レーザー光源は古河電工製のマルチモードファイバーレーザー装置で、出力6kWのものを用いた。回折光学素子(DOE、Diffractive Optical Element)によって、ビームの周辺部にも意図的に一定量のエネルギーを分配する「ビームモード制御技術」を応用した。エネルギーを単純に集中するビームよりも「レーザーの出力を増やした場合でも金属の溶融状態が不安定にならず、飛沫のように飛び散ったり(スパッタ)、空隙が残ったり(ブローホール)する欠陥を減らせる」(古河電工)。

 SCの端部の隙間と位置ずれを許容できるのに加えて、被覆をむいておく長さを短縮できる。「現在は10mm程度必要なところ、6~7mmに抑えられる」(NITTOKU)という。端部をより短時間で加熱できるため周囲に伝わる余分な熱が少なく、被覆がダメージを受けるほど高温になる範囲が狭まるためだ。その分の銅材料の節約につながり、モーターの軸方向の大きさも抑えられる。