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 2021年9月に発足するデジタル庁はシステムの機能と価格の適正さを純粋に追求した、公正な調達ができるのか。その試金石とも言える調査結果がまとまった。

 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(IT室)に設けられた弁護士チームは2021年8月20日、東京オリンピック・パラリンピック向けに政府が発注した、いわゆる「オリパラアプリ」の調査報告書を公表した。調達の過程に違法行為はなかったものの、公平性などが疑われる複数の不適切な行為があったと結論付けた。

2021年8月20日に公表された、オリパラアプリ調達の過程を調査した報告書。平井卓也デジタル改革相の指示で調査が行われた。
2021年8月20日に公表された、オリパラアプリ調達の過程を調査した報告書。平井卓也デジタル改革相の指示で調査が行われた。
(撮影:日経クロステック)
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 平井卓也デジタル改革相はデジタル庁発足に当たり、コンプライアンス委員会を設置して調達の適正さや公正さを監視する体制を作る予定だ。同委員会は今回の報告書を、デジタル庁が関わる調達のルールづくりなどに生かす方針。しかし調査では解明できなかった疑惑も多く残った。もし今回の報告書のような事実認定がベースになれば、本当にその目的を達成できるか疑問符が付く。

IT室職員が「約70億円で見積もりを出してほしい」

 政府は当初、海外観戦客の受け入れを想定して2020年12月にオリパラアプリの調達を始めた。しかし2021年3月の海外観客の受け入れ断念決定を受けて、大会関係者の健康観察向けへと機能を大幅に圧縮した「統合型入国者健康情報等管理システム(OCHA)」へと衣替え。調達費用も約半減の38億5000万円に圧縮した。

 オリパラアプリからOCHAに変わるまで一貫して調達を担当したのは、ITの専門家として慶応義塾大学環境情報学部教授との兼務でIT室の業務にも携わる、神成淳司IT室長代理が率いる9~10人ほどのプロジェクトチーム(PT)だ。調査報告はPTに所属する職員や関係するITベンダーなどを中心にヒアリングしたほかメールや資料の提出を求めて実施した。

 報告書が挙げた調達過程の不適切な行為は、重大なもので大きく2つある。1つが複数のITベンダーに予定価格を決める際に使う参考の見積書を無理やり提出させ、しかも一部はその価格を発注者である神成PT側が決めていたことだ。

 発端は競争入札の落札額の妥当性を評価するために使う予定価格について、内閣官房の会計課が「適正さを確保するには3社以上の見積書が必要」との見解を示したことだ。しかし神成PTの職員の呼びかけに対し見積書作成に応じるITベンダーはなかなか見つからない。そこで担当職員らはNTTコミュニケーションズのほか「J社」「H社」(実名は2社ともに非公表)の計3社に接触した。

調査報告書に基づくOCHA調達を巡る動き
日付出来事
2017年5月~2018年11月ごろ神成IT室長代理がF社長から頻繁に高額な飲食接待
2020年10月2日、12月4日平井卓也デジタル改革相がNTTの沢田純社長と会食(週刊文春の報道)
10月ごろ首相官邸(内閣官房)の会議体でオリパラアプリ導入の案が浮上。内閣官房IT室からは神成IT室長代理らが参加
11月18日ごろオリパラアプリを調達する神成プロジェクトチーム(PT)がIT室内で発足。直前の11月16日にPT職員がF社長らにオリパラアプリの仕様情報をメール送付。その後、F社長をあたかもPTメンバーのように扱う体制を構築
12月上旬IT室の予算で開発する方針が固まる。平井大臣には報告されず
12月下旬神成PTからITベンダー3社に参考見積書の作成を依頼
12月24日神成PTに属する参事官がNTTコミュニケーションズの部長に仕様書案を提示して、参考見積もりの提出を求める
12月28日アプリの開発ベンダーを募集する一般競争入札が公告
2021年1月8日入札締め切り。この頃に、調達手続きの詳しい状況について平井大臣が初めて報告を受ける
1月14日応札はNTTコムを代表幹事とする5社コンソーシアムだけで、同日に選定
1月28日国会で平井大臣がオリパラアプリについて答弁
3月20日オリパラに海外観戦客を受け入れない方針が決定。平井大臣がアプリ発注費の見直し方針を示す
4月7日平井大臣が内部の会議で「NECには発注しない」などと発言し、神成IT室長代理らを叱責(後に音声データが流出)
6月30日アプリの減額交渉がまとまる。開発費は約73.2億円から38.5億円に減額
7月6日週刊誌報道などを受けて、平井大臣が弁護士らによる調査検証の組織を発足させると発表。同じ頃に神成IT室長代理はオリパラアプリにも採用されたデータ連携基盤「WAGRI」に関わる収入配分の権利を2020年度分以降から放棄する旨を所属する慶應義塾大学に申し出る