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 スズキの経営者、鈴木修氏が2021年6月に同社の会長から相談役に退いた。1978年に同社の社長に就任して以来、40年余りで売上高を10倍も伸ばし、同社を世界的な自動車メーカーに引き上げた。「スズキ史上最高の経営者」との評価に異論を唱える人はいないだろう。

 スズキの強みと言えば、真っ先に上がるのが抜群のコスト競争力だ。そのすごさには、コスト削減に定評のあるトヨタ自動車ですら舌を巻く。「当社はコンパクト車事業の収益性が低い。より低価格なクルマであれだけの利益を出せるスズキに学びたい」(元トヨタ自動車副社長)という声が上がるほどだ。トヨタ自動車が羨むほどのコスト競争力は、一体、どこから生まれたのだろうか。

元スズキ社長、会長の鈴木修氏
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元スズキ社長、会長の鈴木修氏
1978年に社長に就任して以来、スズキの経営トップを40年以上務めた。1979年には軽自動車「アルト」を発売し、大ヒットさせた。同氏の下、スズキの売上高は10倍に伸びた。(イラスト:穐山 里実)

 この問いに、「それは、修さんのコスト感覚からだ」と回答するのが、VPM技術研究所代表取締役・所長の佐藤嘉彦氏である。佐藤氏はいすゞ自動車の原価技術推進部長や技監を務め、「日本のテアダウンの原点」と呼ばれる「いすゞ式(佐藤式)テアダウン法」を完成させた人物。1990年代前半には経営危機に陥ったいすゞ自動車をその手法で再建に導いた「原価低減のプロ」である。

修社長にとって「ケチ」は誇り

 その佐藤氏は40年前、鈴木自動車工業(当時、現スズキ)の社長だった鈴木修氏(以下、修社長)から直接、その驚くべきコスト削減の思想について薫陶(くんとう)を受けた。その時、修社長は既に「ケチ道」を極めていたと見られる。

 最初に断っておくが、修社長にとって「ケチ」という表現は決して悪口ではない。むしろ「修さんは誇りに思っていた」と佐藤氏は証言する。それがスズキに高いコスト競争力をもたらし、世界的な自動車メーカーに成長する原動力となったからだ。「修社長の『ケチ』の本質は、無駄を徹底的に省くこと」であり、逆にここぞというところにはお金を惜しみなく投じる。

「せっかくだから、お茶でも」

 1981年、スズキといすゞ自動車は業務提携を結んだ。「両社で5%ずつ株を持ち合い、研究開発や生産技術について互いに学び合おうとした」(佐藤氏)のだ。この提携自体は発展せずに数年で解消に至るのだが、業務提携に際して、いすゞ自動車側の交渉役の1人として抜てきされたのが、当時30歳代後半の佐藤氏だった。

 当時の上司だった専務の指示を受けるたびに、佐藤氏は修社長と面会して、いすゞ自動車の書類や手紙を手渡ししていた。すると、「まあ、せっかく来たんだ。お茶でも飲んでいきなさい」と修社長から言われ、いろんな話をしたり、工場や設備を見せてもらったりしたという。「修社長のおおらかで気さくな人柄はその時から変わらない。この時に、ご自身の仕事ぶりや考え方をいろいろと披露してくれた」と佐藤氏は振り返る。その中でも記憶に鮮明に残ったのが、修社長の「ケチ」っぷり、すなわち自慢のコスト削減事例だ。