政府が進める「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」の先行事業で採用するクラウドサービス提供事業者の決定が当初予定の2021年7月から大幅に遅れている。内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室(以下、IT室)によるとデジタル庁が発足する9月以降に遅れる見通しで、全体のスケジュールの遅れにつながる恐れがある。
6月に自治体の募集を開始していたが……
ガバメントクラウドは政府が2025年度末までに整備し、原則として全自治体が活用する。政府は複数のクラウドサービス利用環境を整備・運用して、政府や自治体の共通的な情報システムの基盤・機能を提供する。
各府省は市町村の住民記録や地方税、福祉といったそれぞれ所管の17業務を処理する基幹系システムの標準仕様を作成する予定だ。IT室は情報セキュリティーなどの非機能要件やデータ要件、連携要件を担う。
ガバメントクラウドが整備されると、自治体はこれまでのように自らサーバーなどのハードウエアやソフトウエアを所有したり、個別に情報セキュリティー対策や運用監視をしたりする必要がなくなる。オンラインで基幹業務なども可能になるという。
自治体向けアプリケーションの開発事業者は、標準仕様に準拠した基幹業務アプリなどを開発してガバメントクラウド上に構築する。自治体はアプリ開発事業者と利用契約を結んでガバメントクラウド上のアプリを利用できる。コスト削減や迅速なシステム構築、柔軟な拡張が可能になり、データの移行や庁内外のデータ連携が容易になると期待されている。
IT室は2021年9月からガバメントクラウドの先行事業を始める予定だった。2021年6月に自治体の募集を開始し、平井卓也デジタル改革相は7月の記者会見で市町村から52件の応募があったと述べていた。しかしIT室によると8月25日現在、クラウド提供事業者の募集に向けて準備中で調達内容を検討中という。
クラウド事業者が決まらないまま計画を提出
ガバメントクラウドの先行事業は、2022年度末までに自治体が安心して利用できることを実証するのが目的だ。市町村は住民基本台帳システムなど基幹業務システムについて、現行システムの状況に応じてガバメントクラウド上の標準仕様に準拠したアプリへの移行パターンを決め、基幹業務システムなどのアプリ開発事業者と共同で「先行事業計画」をIT室に提出した。
IT室は自治体による先行事業計画を踏まえて、自治体の規模やシステム構成が多様となるよう選定する。自治体がガバメントクラウドに情報システムを移行するための課題を検証するほか、移行方法の検証を踏まえて現行システムとの投資対効果も比較する計画だ。先行事業では単一のクラウドに自治体のアプリを構築する想定という。
ところが、肝心のクラウド提供事業者が決まらないまま、先行事業への参加に応募した自治体は8月10日までに概算費用を盛り込んだ先行事業の計画提出を求められた。先行事業に必要な費用は国が負担するものの、応募した自治体はアプリ構築や庁内回線などの概算費用を見積もる必要があったという。