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[1]鞍状歯車

 全方向に回転する球状歯車と組み合わせるのは、「鞍(くら)状歯車」である(図1)。球状歯車と2つの鞍状歯車、鞍状歯車を動かす駆動モジュールなどでアクチュエーター(以下、球面モーター)を構成する。球面モーターは、ロボットアームの関節部分や、ドローン用カメラの画面揺れ防止に使うジンバル機構などに応用できる。

図1 鞍状歯車の形状
図1 鞍状歯車の形状
鞍状歯車の歯面は曲率半径が変化していき、円形の「極構造」を持っている。(出所:多田隈理一郎氏)
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 この球面モーターを開発したのは、山形大学学術研究院機械システム工学専攻准教授の多田隈理一郎氏と東北大学大学院情報科学研究科タフ・サイバーフィジカルAI研究センター准教授の多田隈建二郎氏、同特任助教の阿部一樹氏の研究グループだ。「鞍状歯車を思い付いたことが、開発のブレークスルーになった」と阿部氏は振り返る。

円形歯面の極構造に対応

 球状歯車の形状は次のようにして決める。まず、XYZの直交座標系の原点に中心がある平歯車(インボリュート曲線)を、XY平面上に描く。この歯車をX軸周りに回転させると、しま模様の球体ができる。次に、今度は歯車をY軸周りに回転させる。すると、表面に格子状の凹凸(直交する2つの歯車列)を持つ球体が完成する。これが、球状歯車である(図2)。

図2 球状歯車の形状
図2 球状歯車の形状
平歯車(インボリュート曲線)を2方向に回転させた歯面の軌跡を合成した形をしている。(出所:多田隈理一郎氏)
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 この球状歯車とかみ合うようにしたのが鞍状歯車だ。鞍状歯車1つで、球状歯車が持つ歯車列の片方に対応する。球状歯車の形状は前述のように平歯車を回転させて決めるため、球状歯車の歯面は曲面となる。曲率半径は変化していき、回転軸付近は小さな円形になる。これが「極」と呼ぶ構造だ。

 鞍状歯車の歯面も、こうした球状歯車の形状に合わせて変化させている。回転させた際に互いの極が一致するよう歯数も調整する。試作した球面モーターでは、鞍状歯車が1回転すると球状歯車が半回転するようにした。1つの歯車列で見ると球状歯車には極が2つあり、鞍状歯車には極が1つという関係になる。

 球面モーターでは、1個の球状歯車に2個の鞍状歯車を組み合わせる(図3*1。2個の鞍状歯車はそれぞれ、ピッチ回転(かみ合う歯面が変化していく回転)とロール回転(ねじるような動きの回転)という2自由度の動きを駆動モジュールによって実現する*2

図3 球状歯車と鞍状歯車の関係
図3 球状歯車と鞍状歯車の関係
極構造が対応するようになっている。(出所:多田隈理一郎氏)
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*1 2個の鞍状歯車を対向させるように配置しても良いし、鞍状歯車の回転軸が直交するような位置に配置しても良い。
*2 鞍状歯車を動かす役割を担う駆動モジュールは2個のモーターと差動機構を内蔵しており、各モーターの回転速度と方向を制御することで、鞍状歯車のピッチ回転とロール回転を実現する。

 こうした鞍状歯車の動きによって、球状歯車は全方向(回転3自由度)に回転する(図4)。片方の鞍状歯車がピッチ回転して、もう片方の鞍状歯車が球状歯車とロール回転する場合もあれば、両方の歯車が2軸(ピッチ回転とロール回転)で動く場合もある。鞍状歯車の歯面は球状歯車の歯面に対して横方向(ピッチ回転軸方向)に滑るようにも動くため、2つの鞍状歯車を矛盾なく動かせるわけだ。

図4 球面モーターの構造
図4 球面モーターの構造
球状歯車と2つの鞍状歯車(白色の部品の内部)、鞍状歯車を回転させる2つの駆動モジュールなどで構成する。(出所:多田隈理一郎氏)
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小型・軽量で高い動力伝達効率

 従来も、回転3自由度を実現するさまざまな方法はあった。それらに対して今回開発した球面モーターは、「小型・軽量で、動力伝達効率が高い」(東北大学大学院の阿部氏)という特徴を持つ。

 例えば回転1自由度の一般的なモーターを3台組み合わせれば回転3自由度を実現できる。ただし、この方法ではどうしても装置が大型化しがちで、可動側にもモーターを搭載する必要がある(質量が大きくなる)ため慣性力が増してしまう。

 球体を出力軸として回転3自由度を1台で実現する球面モーターの研究も進んでいる。圧電素子や磁歪(じわい)素子、摩擦車などで球体を回転させる方法だ。「これらの方法では滑りによる伝達ロスが生じやすい。歯車であれば、確実に動力を伝えられる」と阿部氏は説明する。

 球面モーターの用途として想定するのは、ロボットアームの肩や手首、カメラの首振り機構などだ。「車輪などの方向性も考えており、あえて用途は限定していない。実用化へのノウハウを求めており、共同研究先の企業も探していきたい」と東北大学大学院の多田隈建二郎氏は語る。