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 花王は2021年5月、店舗の売り場づくりなどを担当する「マーチャンダイザー」がドラッグストアなどの各販売店をどの順序で訪問するかを自動で計画する新システムを稼働させた。子会社の花王フィールドマーケティングに所属するマーチャンダイザー約2000人の「巡回計画」の立案を自動化する。

 「計画を立てる社員の業務時間を2~3割減らす効果が出始めている」。同社の磯谷淳一経営企画部マネージャーは、新システム導入から3カ月たった手応えをこう話す。システム導入以前は全国約60エリアごとに計画立案者が手作業で巡回計画を考えており、紙を使った立案作業も珍しくなかった。新システム導入後はエリア数を約30個に集約し、立案はほとんど新システムが担うようになっている。

 新システムの構築に当たり、花王が手を組んだのは日立製作所だ。新システムの中核には、多数の制約条件を満たす解を見つける「数理最適化技術」とAI(人工知能)を組み合わせた日立のAIサービス「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス(以下、計画最適化サービス)」を採用した。

システム導入前後の比較
システム導入前後の比較
(出所:花王、日立製作所)
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 新システムは週次の夜間バッチ処理で翌々週分の巡回計画を自動生成する。計画立案者は日々の業務のなかで計画に変更がある場合は微調整する。計画立案のために取り込むデータはマーチャンダイザーの住所や店舗の住所、店舗での作業内容、店舗間の移動時間などだ。移動時間は地図情報などを基に作成している。

 マーチャンダイザーは自宅から店舗に直行するケースも多い。そのため、巡回計画の立案ではマーチャンダイザーの住所や移動方法などを考慮する必要がある。

3ステップで手作業を自動化

 新システムは2019年5月から2021年4月までの約2年間で開発した。開発メンバーは花王と日立など合わせて約40人。日立は計画最適化サービスをベースにして計画を立案するエンジンの開発を担当し、花王は表示画面などの開発を担当した。

 開発期間は大きく3つのフェーズに分かれる。最初のフェーズが2019年5月から2019年12月末までの「調査・分析フェーズ」だ。効果検証期間としての位置づけである。

 首都圏と郊外双方の巡回パターンを併せ持つ地域として千葉県を選び、巡回計画を自動作成するアルゴリズムを構築。人間と同等の結果が得られるかを検証した。千葉県での1日の巡回計画を立てる場合、これまでは立案者が数時間かけてつくっていたが、開発したシステムを使うと約5分で人と同等レベルのものが生成できるようになった。

 アルゴリズム構築に当たっては、花王と日立が共同で熟練の計画立案者から業務内容をヒアリングした。どういった手順で巡回計画を考え、その際に何を考慮しているかを文書として整理していった。さらに紙の立案計画と立案後にシステムに登録していたデータも読み解き、ヒアリング結果と照らし合わせることで、考慮ポイントを精査していったという。

 2番目のフェーズが2020年1月から2020年7月末までの「設計フェーズ」である。前のフェーズで構築した、千葉県を対象にしたシステムを全国規模で適用できるかを検証した。新たな対象エリアに東京都と中国・四国地域を追加し、アジャイル開発を採用して検証を重ねていった。

 「千葉県向けに構築したアルゴリズムを日本全国標準のアルゴリズムに発展させるのに苦労した」。新システムのプロジェクトマネジャーを務めた日立の角田悟産業・流通ビジネスユニットソリューション&サービス事業部主任技師はこう振り返る。

 例えば首都圏のマーチャンダイザーは公共交通機関での移動が多いが、地方では主にクルマで移動するという違いがある。中国・四国エリアを担当するマーチャンダイザーは1人で複数の県を担当するケースもある。その場合、店舗間をクルマで移動する際に高速道路を使うこともある。開発チームは試行錯誤しながらこれらの差異をアルゴリズムに反映した。

 最後のフェーズは2020年8月から2021年4月末までの「開発フェーズ」である。前フェーズで完成させた日本全国標準のアルゴリズムとシステム構成を基にウオーターフォール型で新システムを構築し、2021年5月に本稼働させた。