ダイキン工業が、欧州で暖房・給湯事業を急速に伸ばしている。原動力は、ヒートポンプ式暖房機器。製品のラインアップを増やして販売を伸ばし、2019年には欧州のヒートポンプ式暖房市場でシェア1位の座を奪取した。カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の風を捉え、売り上げを伸ばす好例だ。
欧州で進むもう1つの“電動化”
実は、欧州では燃焼式暖房が主流。ボイラーでガスや石油といった化石燃料を燃やして温水を作り、各部屋に設置したラジエーターに送って床暖房などに利用する「温水式セントラル空調」を採用したケースが圧倒的だ。ところが今、その欧州で暖房の“電動化”が加速している。燃焼式暖房は二酸化炭素(CO2)排出量が多いことから、その排出量がより少ないヒートポンプ式暖房への置き換えが欧州で進んでいるのである。
国際エネルギー機関(IEA)の資料を基にダイキン工業が計算したところ、世界の暖房市場の3割をヒートポンプ式暖房に置き換えれば、世界のCO2排出量を約13億トン(t)も減らせるという。これは世界のCO2排出量の約4%分だ。排気量が2Lのガソリンエンジン車に換算すれば5.6億台に、日本の年間森林吸収量でみると15.6倍にも相当する量である。ヒートポンプ式暖房の潜在的なCO2削減効果は大きい。
欧州市場におけるヒートポンプ式暖房の比率は2020年時点で10%程度。これが10年後の2030年に45%程度まで伸びるという予測もあるという。ダイキン工業は「ヒートポンプ式暖房機器の販売台数は2030年に2020年比で約6倍に増え、金額では8割を占める」と予想する。今後も大きな伸びが期待できる市場というわけだ。
この成長市場に照準を合わせ、ダイキン工業はニーズをきめ細かくくみ取った上で、「業界唯一」(同社)の製品開発を進めてきた。例えば、ヒートポンプ式の暖房・給湯機「ダイキンアルテルマ」シリーズの最上位機種では、電気ヒーターを使わずにヒートポンプだけで外気温が-15度(℃)のときでも、70℃の給湯ができるように性能を高めた。家屋を改装せずに燃焼ボイラーをそのまま置き換えてヒートポンプユニットを設置できるように、使い勝手(据え付け性)も高めている。
加えて、さらに外気温が下がったときでも高温の給湯を可能にするハイブリッドヒートポンプも開発した。これはヒートポンプと燃焼ボイラー(ガスボイラー)を両方使う製品で、外気温が極端に下がった場合に、ヒートポンプと併せて燃焼ボイラーの運転も同時制御する。これにより、極寒冷地域でも使えるようになった。家屋の外観になじむように、デザイン性や静音性にもこだわっている。
こうした工夫が販売を押し上げているのは事実だ。だが、製品開発以上に目を引くものがダイキン工業にはある。それは、巧みな“ロビー活動”だ。