全5606文字
PR

従来型には課題が多い

 ここで重力蓄電システムとして「新型」が求められるのは、今後の蓄電需要の大幅拡大を考えたとき、従来型の揚水発電システムには課題が多いからだ(図2)。課題の1つは、応答時間が数十秒~100秒と再生可能エネルギーの出力変動を吸収するにはやや遅い点だ。従来型揚水発電のこれまでの主な用途は、昼食時間の電力需要の急減などといった火力発電の応答が間に合わない数分単位の需要変動の穴埋めだった。一方、再生可能エネルギーの出力変動は秒単位で、応答時間が数十秒では間に合わないのである注2)

図2 新しい重力蓄電が揚水発電の課題の多くを解決
[画像のクリックで拡大表示]
図2 新しい重力蓄電が揚水発電の課題の多くを解決
新旧の重力蓄電システムの概要や特徴、お互いの違いを示した。旧システムとは揚水発電システムのことで、国内で27GW/130GWh 、世界全体で約1000GW分ある(a)。実績があり大容量にしやすい点は優れるが、設置場所が非常に限られる上に、応答時間が数十秒とやや遅く、再生可能エネルギーの出力平準化には懸念がある。総合効率が70%とやや低いことも懸念の1つ。一方、新しい重力蓄電システムは応答時間が1秒以下と短く、総合効率が85%前後と高い(b)。地上設置タイプも含めれば、設置場所を選ばない点も優れる。〇、△、×は蓄電システムとしてそれぞれ優れている、幾つか懸念がある、課題が多い、を示す。赤字は新型が旧型に対して優れている項目。(出所:(a)は電気事業連合会の図を基に日経クロステックが作成、(b)は主に英Gravitricityの図と特性データを基に日経クロステックが作成)
注2)もちろん、課題がこれだけであれば、キャパシターや蓄電池など応答時間の短い技術と組み合わせて使うことでカバーできる。

 加えて、“蓄電”と“放電”の1サイクルの効率(総合効率)が最大で70%という点も大きな課題である。これは、揚水発電で利用するポンプの効率は液体(水)を扱う関係で約90%がほぼ限界となっているのに加え、水路の管と水との摩擦によるロスがあるためだ。

 70%は30%前後の水素に比べれば高いが、最近のLIBの同80~85%という値と比べると低い注3)。一見わずかな差に見えるが、損失で考えると、LIBの約15~20%に対して、揚水発電は30%超となり、無視できない差となる。

注3)LIBの充放電効率値は電力系統での損失は含まず、交流(AC)-直流(DC)変換、LIBの充電と放電、そしてDC-AC変換での損失の合計値の概算に基づく。

設置可能な場所が限られる

 さらには、システムの大幅増設が容易ではないことも課題だ。従来型の揚水発電システムは1システムを大容量にしやすいが、その裏返しとして初期投資額が最大で数千億円と巨額になることや工事時間が環境アセスメントなどを含めると10~数十年と長期間にわたること、そして相当規模の環境破壊を免れない。なにより、物理的に設置可能な場所が非常に少ない。揚水発電システムでは上げ下げした水をためる「上池」と「下池」が必要で、その高度差は200m以上、水路長は逆に2km以下といった条件を満たすことが求められるからだ注4)

注4)高度差の不足はタービンの効率の低下、長すぎる水路は水路と水の摩擦損の増大につながる。

 充放電のコスト(電力平準化コスト)についていえば、以前は揚水発電システムが最も低コストの選択肢だったが、最近のLIBを基にしたシステムと比べると割高になりつつある。

†電力平準化コスト=LCOS(Levelized COst of Storage)などと呼ばれる揚水発電システムの利用コストの多くは、同システムを独立の“発電システム”とみたときの発電コストである。つまり、蓄電システムとしての利用コストに加えて揚水(充電)コストが上乗せされている。この充電コストは、電気料金に依存するが、それは国・地域によっておよそ3~30円/kWhの幅で大きく異なる。蓄電システムを発電システムの電力平準化のための追加設備としてみると、この充電コスト丸ごとは不要で、代わりに総合効率(または充放電時の損失)を考慮すればよい。本稿ではこれを電力平準化コストと呼ぶ。

 このため、さまざまな改良版の揚水発電システムも提案されている。ただ、多くはやはり水を重りにするか、水圧で重りを上げ下げするなどポンプで駆動するものが多く、効率を含む幾つかの課題が残る。

LIB並みの効率で街中もOK

 一方、新型の重力蓄電システムは従来型揚水発電の課題のほとんどを解決できる(図2(b))。同システムにも幾つかのバリエーションはあるが、数十~数千トンのコンクリートブロックを重りとして使い、それをワイヤでつってモーター(ウインチ)で上げ下げする点で共通する。モーターには高効率のハイテク技術が必要だが、それ以外は驚くほどのローテクで良い。

 従来型の揚水発電で課題だった応答時間の遅さは、新型重力蓄電システムでは1秒以下と劇的に改善する。「ミリ秒単位」(スイスEnergy Vault)というメーカーもある。

 充放電の総合効率も新型では85%前後とほぼLIB並みの高さだ。これは、重りの上げ下げに効率の低いポンプではなく、効率が95%前後と高いモーターを使える上に、水路の管と水との摩擦によるロスも、新型にはないからである。設置場所についても、新型は街中でも建設可能と選択肢が比較的広い。

 電力平準化コストは、実装によってやや異なる。新型重力蓄電システムの代表的なメーカーは現時点で2社。英GravitricityとEnergy Vaultである。

 Gravitricityは2021年4月に高さ15mの実証システムを英国エディンバラの港に建設した(図3)。その見た目はただのエレベーターに近い。これは地上のシステムだが、実用化時には地中に150~1500mの縦穴を掘り、そこに数百~数千トンの重りを入れて上げ下げする。想定する“蓄電容量”は10MWh。Gravitricityの電力平準化コストは、12.1米セント(約13円)/kWh注5)。これは、従来型揚水発電システムで最も低い同コストとほぼ並ぶが、最近のLIBベースのESSの電力平準化コストの本誌推定値4~6円/kWh前後と比べるとまだかなり割高だ。

注5)Gravitricityが公表したLCOSの値17.1米セント/kWhから電気料金分(5米セント/kWh)を引いた値。
図3 エレベーターにそっくり 
[画像のクリックで拡大表示]
図3 エレベーターにそっくり 
Gravitricityが2021年4月に、英国エディンバラの港に建設した重力発電システムの高さ15mのプロトタイプ。ウインチは地上のコンテナ内にあり、25トンの重りを2個つりあげられる。最大出力は250kWだという。実用化時は、主に地下に埋設することを想定する。炭鉱などの立坑を利用することも計画中だ。 (出所:Gravitricity)

 ただし、Gravitricityは、縦穴として世界各地の炭鉱跡の立坑なども使えるとしている。その場合はコストが大幅に下がりそうだ。