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クレーンで“バベルの塔”建設?

 もう一方のEnergy Vaultは現在、実用化に最も近いメーカーといえる。既にインドTata(タタ)グループと実用システムの建設で契約済みのほか、ソフトバンクグループが2019年8月と2021年8月に計2.1億米ドルの出資を発表。米国の課題解決会社Helena(ヘレナ)やサウジアラビアの投資会社であるSaudi Aramco Energy Ventures(SAEV)などからも出資を受けている。

 Energy Vaultのシステムは、高さ120~160mの塔の上に長さ数十mの“腕”を数本水平に渡した巨大なクレーンの一種である(図4~図6)。腕に設置した可動式のウインチ6機で、1個35トンのコンクリートブロックを6000~7000個つり上げる。ただし、すべてのブロックを最上部までつり上げるのではなく、塔の周りに下から順に積んでいくのである。“完成”すると、一部のメディアからは「バベルの塔」と呼ばれている、約50階の高層ビルが出来上がる注6)。重りをつり下げる場合は、塔からやや離れた場所に低く積み替える格好だ。

注6)Energy Vaultは、ブロックの上下の面に鉄板を張るということ以外、ブロックの積層を安定化する仕組み、またはブロック同士を固定する仕組みを明らかにしていない。「嵐などで倒壊することはない」(同社)と主張しているが、耐震性については言及していない。
図4 高さ120mの樹木のようなクレーン
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図4 高さ120mの樹木のようなクレーン
Energy Vaultがスイス・ティチーノ(Ticino)に2020年7月に建設した高さ120mの重力蓄電システムの例。既にスイスの電力系統に連系され、試験的な稼働を始めている(写真:Energy Vault)
図5 35トンの重りを可動式ウインチでつり上げる
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図5 35トンの重りを可動式ウインチでつり上げる
35トンの重りをつり上げるウインチが空中に伸びた“腕”に計6機、装備されている。重りは廃材などを含むコンクリートブロックである(写真:Energy Vault)
重りを積み上げた状態
重りを積み上げた状態
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重りを下ろした状態
重りを下ろした状態
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図6 6000個超の重りを積み上げ、下ろす
商用化第1号機(EV1)の稼働イメージ。高さは160~170mで、重りを計6000~7000個利用する。重りは、すべてを上までつり上げるわけではなく、あたかも高層ビルを建設するかのように下からレンガのように重ねて積み上げる。下ろすときは、やや離れた場所に低く積み上げる。EV1では、蓄電容量 35M~80MWh、最大出力5MWを想定する(図:Energy Vault)

巨大自動倉庫型は22年稼働へ

 このクレーン1塔分の“蓄電容量”は標準的には35MWh、最大でも80MWhだが、Energy Vaultは別の実装形態も想定する。それが、巨大自動倉庫型の「EVx」である(図7)。

 これは、高さ30階程度の巨大な建屋の内部全体を自動倉庫のようにしてしまうタイプだ。内部構造の詳細は明らかにしていないが、「10MWh程度の“モジュール”を内部に多数設置する格好」(同社)で、最大で数GWhの容量も実現可能とする。

 Energy Vaultによれば、最初のEVxの建設は2021年内に米国で始まり、2022年中に稼働させる計画。同社に出資したSAEVもこのEVxに注目しているとする。

図7 ビルのような外観で数GWhも可能に
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図7 ビルのような外観で数GWhも可能に
Energy Vaultの重力蓄電システムの別のデザイン例「EVx」。30階建てのビルのように見えるが、内部にはやや高さが低いEV1のようなシステムが多数設置され、巨大な立体倉庫のようになる。蓄電容量は最大で数GWhを想定。左はメガソーラーのイメージ(写真:Energy Vault)

廃材活用でコストを圧縮

 Energy Vaultの重力蓄電システムに出資が集まる最大の理由は、おそらくそのコストの安さだ。同社によれば、電力平準化コストは2~4米セント/kWhで、LIBベースのESSの推定最安値とほぼ並ぶ。太陽光発電の発電コストは地域によっては2~3米セント/kWhになっているが、これに重力蓄電システムを追加しても5~6米セント/kWhで済んでしまう。出力を自在に制御できる再生可能エネルギーが低コストで実現するわけだ。

 安さの秘密は、クレーンを使った簡易なシステムと、重りとして数千個を使うコンクリートブロックの中身だ。このコンクリートブロックの主原料は、ビルの建材に使うような高品質のセメントではなく、「(システムを建設する)地元の砂、石炭火力発電の燃えカスや風力発電の壊れたブレード、その他諸々の産業廃棄物など」(Energy Vault)と調達コストがほとんどかからない材料でよいとする。実際、2021年7月にはイタリアの再生可能エネルギー企業であるEnel Green Powerと、破損した風力発電用ブレードの再利用で提携した。

長期間の蓄電に最適

 重力発電システムのLIBベースのESSに対する特徴は、貯蔵時間をいくら長くしても、その間の容量の自然放電などがまったくない点。応答時間が短いこともあり、仮にコストでLIBを下回れば、LIBを差し置いて大容量蓄電システムの主役に躍り出る可能性もある。