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 トヨタ自動車は開発中の全固体電池について、電気自動車(EV)ではなくハイブリッド車(HEV)から採用する考えを示した。現時点で、EV向けの同電池については課題解決のめどが立っていない。「EVのゲームチェンジャー」と期待されてきたが、当面のEV開発では現行の液系リチウムイオン電池の改良でしのぐ。

トヨタが2022年に発売予定の電気自動車(EV)「bZ4X」(出所:トヨタ)
トヨタが2022年に発売予定の電気自動車(EV)「bZ4X」(出所:トヨタ)
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 2021年9月7日に開催した電池に関する説明会で明らかにした。トヨタ執行役員でChief Technology Officer(CTO)の前田昌彦氏は全固体電池のEVへの採用に対して「技術課題がかなりある」とし、早期の実用化に慎重な姿勢を示した。

 トヨタが考える課題のうち、大きいのが電池の寿命が短いことである。原因は特定しており、電池の充放電を繰り返すと固体電解質が収縮し、負極活物質などとの間に隙間ができてしまうことだ。イオンが正極と負極の間を通りにくくなり、電池の劣化を促進してしまう。

 解決するには収縮しにくい固体電解質の材料を見つける必要がある。前田氏は「新材料を見つけられると早いが、見つからなければ時間がかかる」と現状を説明し、解決のめどが立っていないと明かした。一般に、新材料の開発には実用化まで5年以上かかるのがざらである。

 一方でHEVへの採用は20年代前半を目指し、かねて掲げていた実用化目標時期を死守する。前田氏は「新技術は世の中に出して顧客に評価してもらうことで成長する」と話し、早期の量産にこだわる。

トヨタChief Technology Officer(CTO)の前田昌彦氏(出所:トヨタ)
トヨタChief Technology Officer(CTO)の前田昌彦氏(出所:トヨタ)
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 全固体電池をHEVに採用するのは、液系リチウムイオン電池に比べて出力を高めやすい特徴があるからだ。頻繁な充放電が必要なHEVに向くとみる。前田氏は全固体電池の特徴として「イオンの動きが速いこと」を挙げ、開発中の固体電解質のイオン伝導度が通常の液系リチウムイオン電池を上回っていることを示唆した。

 一般にHEVで使用する電池の充電量(SOC)の範囲は狭く、電池が比較的劣化しにくいとされる。前田氏は「楽観できる状況にない」と話しており寿命以外にも課題が残っているようだが、HEV用であればこうした課題を解決できると見込んだ。

 トヨタは全固体電池の量産に向けた開発を前進させている。20年6月に全固体電池を搭載した試作車を造り、テストコースで走行試験を実施し始めた。同年8月には全固体電池の搭載車両でナンバーを取得したという。

全固体電池を搭載したナンバー取得済みの車両(出所:トヨタの動画から)
全固体電池を搭載したナンバー取得済みの車両(出所:トヨタの動画から)
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