「事務作業が増えるだけだ」――。政府は2021年8月23日から、海外への渡航者を対象とした新型コロナウイルスのワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)をマイナンバー制度の個人向けサイトである「マイナポータル」経由で申請する仕組みを整えたが、利用できるのは9月9日時点で16自治体にとどまる。発行事務を担当する自治体から不評のワケを探ると、デジタル庁が今後取り組むべき課題が見えてきた。
ワクチン接種証明書のオンライン申請には、マイナポータル上で自治体の各種手続き申請に使われる汎用的なサービスである「ぴったりサービス」を使う。政府が申請の標準様式を作成し、自治体に配布した。居住地の自治体がこの仕組みを運用すれば、申請者はマイナポータル上で申請の手続きをできるようになった。
だが、利用する自治体は少ない。9月9日時点で利用しているのは、全国約1700自治体のうち宮崎市や宮崎県都城市、山形県寒河江市、千葉県いすみ市など16自治体だ。
「かえって職員の手間が増える」
ワクチン接種証明書の申請を郵送で受け付けている、ある自治体の情報部門担当者は、ぴったりサービスを利用しない理由として、「かえって職員の手間が増える」ことを挙げる。
具体的には2点ある。1点目は、ぴったりサービスを使ってオンラインで申請を受け付けても、職員がいったん紙に印刷してからワクチン接種証明書の発行作業を行う必要がある点だ。紙の申請書を受け取るよりも、かえって職員の手間が増える。
オンライン申請なのだから、申請データを印刷せずそのまま処理すればよいのでは――。当然そう考えるところだが、ことはそう簡単ではない。同じ政府内の複数のシステムが連係しておらず、データが分断されているのだ。