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(写真:日経クロステック)
(写真:日経クロステック)

世界で初めてカナダD-Wave Systemsのイジングマシンを商業サービスに利用し、既に100件以上の案件を持つというグルーヴノーツ。イジングマシンで解く手法をいち早く採用したのは、1人ひとりのニーズの多様性を尊重した社会を実現するためだったという。多くの事例と向き合う中で見えたイジングマシンを使うメリットを代表取締役社長の最首英裕氏に聞いた。(聞き手=土屋 丈太、野澤 哲生)

世界で最も早い時期にD-Waveのマシンを利用した組合せ最適化問題を解くサービスの提供を始めたと聞きますが、その経緯を教えてください。

 当社のミッションは、豊かで人間らしい社会の実現に貢献することです。そのためには、多様性を認めていくことが重要だと思っています。多くの人が望むのは、皆が同じであることではなくて、ありのままの自分が許容される世の中ではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、リモートワークと出勤とを選べる風潮になってきたのも、今までの体制に無理があり、これを機に皆が是正しようと考えたからに見えます。

 ただし、工夫なしに多様性を広げようとすると社会システムの効率が下がってしまいます。ましてや、これまで「マス」を相手に10種類しかなかった商品が1万種類になったら、さまざまな資源の最適配置や物流システムの運用はもはや人間の手には負えません。当社では当初、人工知能(AI)と既存の数理最適化手法を軸に多様性と効率の両立を図ろうとしていました。AIを使って多様化するニーズを高い解像度で予測し、次に数理最適化手法で組合せ最適化問題を解いて具体的な資源の配分を決めるのです。

 ところが、既存の数理最適化手法では求解のスピードと精度が共に十分ではありませんでした。もっと劇的にスピードと精度を上げられないかを考え始めたのが2018年ごろです。その時たまたま知人からD-Wave Systemsを紹介してもらい、契約に至りました。イジングマシンを使うのは初めてでしたが、とりあえず自力でチャレンジしました。すると、たった2カ月で実際に使えるようになりました。

D-Waveのイジングマシンの使用で解の精度は向上しましたか?

 初めは単純な人員のシフト計画作成でもいい答えが出ないなど、相当苦労しました。お客さんが抱えている課題もまちまちで、個々の案件に対して、どうすれば適切なモデルをつくれるのか悩みました。ですが、ある時点からコツがつかめてきました。コツの1つは、個々の課題が出てくる都度、要件定義といった文章表現に依存する従来型の手法に頼らず、最初から要件の構造に着目する数学的なアプローチを採ることです。数式は抽象的な概念なので、解釈次第でさまざまな応用が効きます。

 もう1つのコツは、どんな課題もそのまま単純にイジングモデルにしないことです。それらを理解できたら、成果が出始めました。お客さんの期待を次第に上回るようになり、注文もいきなり増えました。

 ちなみに、現在はイジングマシンとしてD-Waveだけではなく、東芝の「シミュレーテッド分岐マシン(SBM)」なども使っています。こういう課題にはこのマシンが向いているという傾向も分かってきました。D-Waveの実用上の良さは、制約条件間の微妙な関係性を考慮した答えを出せる点です。同様に東芝のマシンにも向く領域があります。それぞれの向く使い分けを心がけています。