全3871文字
PR
(写真:日経クロステック)
(写真:日経クロステック)

物事の最適なバランスを見極める組合せ最適化問題。それを解くには、当然ながらさまざまな関連データが欠かせない。東北大学 教授の大関真之氏は、こうしたデータ収集プロセスが最適化の重要な副産物だと主張する。量子アニーリングマシン利活用を研究する意義や、研究に取り組み始めたきっかけを同氏に聞いた。(聞き手=土屋 丈太、野澤 哲生)

先日はカナダD-Wave Systemsの量子アニーリングマシンの使い方を教える講義動画をYouTubeでライブ配信していました。大学生だけではなく、高校生や社会人にも量子アニーリングを教える理由は何ですか?

 1番の理由は、量子アニーリングなどの基礎技術が社会の役に立つことを広く知ってもらいたいからです。新しい技術が登場しても、それを使いこなす人がいなければ、「だから何?」と思われて終わってしまいます。技術は実際のシーンで使えたときに、初めて意味を持ちます。YouTubeでの取り組みは、大学発の研究開発を社会の方に認めてもらうための準備でした。

 講義では、「量子アニーリングの技術を習得したら何がしたいか」を受講者たちに考えてもらうことを大事にしました。実際、世の中には“犬も歩けば棒に当たる”、みたいな感じで組合せ最適化問題があふれています。それを解く手段として古典コンピューターによるアルゴリズムも非常に高速で強力な半面、高校生でも使えるかというとそれは難しい。一方、量子アニーリングは、とりあえず問題を突っ込めば答えが出るなど敷居が低い。それで組合せ最適化問題に向き合うようになってほしいんです。その後、他のソルバーの方がより適しているのであれば、それを選べばいいので。問題の発見の仕方をとにかく学んで欲しかったわけです。

量子アニーリングとその他の解法(ソルバー)は、どのようなすみ分けが適切だと感じますか?

 オペレーションズリサーチ(OR)は古くから研究されており、しっかりしたアルゴリズムが確立されています。その確立した手法が向いている事例にはその方法を使えばいいと思います。そして、企業が解いてほしいと提示する問題の多くは実はORの作法に基づいた、“きれい”なお行儀のいい問題なのです。一方で本当に解いてほしいような問題、それは、条件がぐちゃぐちゃした“ほどほどに難しい”問題であることがあります。

 磁石の中でスピンという小さな磁石がその全体の性質を決めているのですが、スピンの向きがそろう傾向と、反対向きにそろう傾向が混在する場合、どちらに向いたらいいかわからない状況になります。それを「スピングラス」といいます。不純物を含む金属で、強磁性体と反磁性体が混ざった場合に生じます。このように一概にどちらを向いたらいいかわからない問題が、社会的な応用例として、津波などの自然災害からの避難問題にみられます。被災者を減らすには、ある人がある避難経路を選択したら、別の人は混雑を避けて違う経路を選ぶのが適切です。でもよくよく考えると、逃げるときに全員がバラバラでなくてもいい。グループである程度集合してバスに乗ることができれば被災リスクを減らせます。つまり、反発する指向と合流する指向が混ざっており、スピングラスと同様の傾向があります。したがって量子アニーリングであれば、誰がどのバスに乗るべきかすぐに求められます。津波の例以外にも、現実社会のさまざまなシーンに、こうした二項対立のフラストレーションがあります。このような問題を世の中から探し出し、解いていくのが、今の僕のモチベーションです。

 ちなみに、本当に難しい問題は量子アニーリングを含め、どんな技術を使っても解くのは難しいと考えられています。量子アニーリングがどんな問題でも高速で解けると宣伝するのは感心できません。夢の技術のような表現はしてはいけません。