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 「最初は走らず、早歩きでもいい。視覚障害のある人が一歩踏み出すきっかけになってほしい」。そう話すのは、米Google(グーグル)が手掛ける研究開発プロジェクト「Project Guideline」において、日本で最初のパートナーを務める全盲のランナー、御園政光氏だ。

 Project Guidelineではスマホとヘッドホンを使い、ランナーをガイドする技術の提供を目指している。画像認識技術を活用し、ランナーの腰に装着したスマホで地面に引かれた色付きの線を認識。その線がランナーの左/中央/右のどこに位置するかをヘッドホンを通じて音声で伝え、線からそれず走れるように支援する仕組みだ。

Project Guidelineのイメージ。線から左にそれるほど左耳から聞こえる音量が大きくなる
Project Guidelineのイメージ。線から左にそれるほど左耳から聞こえる音量が大きくなる
(出所:グーグル)
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 グーグルは光の向きや明るさ、道路の色や落ち葉の有無などさまざまな条件下で正確な判断をできるよう、オープンソースソフトウエア(OSS)として公開する機械学習ライブラリ「TensorFlow」を活用して機械学習モデルを構築。「可能な限り多様な状況でデータを収集してモデルに学習させ、精度向上を図っている」(担当者)。御園氏からも「条件によってカメラの認識に差があり、音にぶれが生じる」といったフィードバックを得て、米国の開発チームと共有。その他のフィードバックも踏まえて開発を継続中だ。

伴走者の「代替」以上の意義

 Project Guidelineは、米グーグルが2019年に開催したハッカソンイベントがきっかけだった。米NPO法人「Guiding Eyes for the Blind」のCEO(最高経営責任者)で、盲目のランナーでもあるThomas Panek(トーマス・パネック)氏が、「視覚障害のあるランナーが1人で走るためにテクノロジーを使ってできることはないだろうか」と問いかけたことから始まった。最初のプロトタイプの開発とともに米国で2020年11月に発表された。

 日本での発表は2021年8月。ただ、御園氏との取り組み自体は2021年3月ごろから始まっていた。視覚障害者向けの情報通信技術アドバイザーも務める御園氏は「テクノロジーの活用でマラソンをより楽しめるのなら試してみたい」とプロジェクトへの参画を決意。最初は競技場内のトラックを使って試行を重ねた。

 2021年5月には独力で10キロメートルの完走に成功した。Project Guidelineでは線からずれるほど聞こえる音量が大きくなり、一定以上離れた場合は「ストップ」と音声で制止がかかる。御園氏は「シンプルな作りで、1人で走れることに驚いた。骨伝導のヘッドセットを使って、海辺では波の音を楽しみながら走ることができた」と振り返る。