キリンホールディングス(HD)は人工知能(AI)を搭載したビールの商品開発支援システム「醸造匠AI」に、ビールの作り方を考案する「レシピ探索機能」を追加。2021年6月から試験運用している。目標とする味の数値指標を基に、AIが原材料の配合、醸造の条件、機器の条件などを提示する。商品開発業務を効率化するだけでなく、熟練担当者でも発想し得ない新たなレシピの開発を目指す。
AIがビールのレシピを導出
ビールのレシピ開発は大きく2つの段階を経る。第1段階は商品コンセプトの策定だ。商品の方向性やイメージなどを決めた上で、味や風味を構成する数値を設定し、原料などを選ぶ。
続いて第2段階の試作に入る。試作用の機械でビールを醸造し、化学分析や試飲を重ねて味を評価する。この段階で消費者調査も加え、得られた声も基にレシピ開発を進める。
トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら試作を重ね、最終的なレシピが決まる。試作では、作った麦汁に酵母を加えて発酵させ、熟成させる。キリンHDのR&D本部飲料未来研究所に所属し新商品開発に携わる岡田理志氏によると、1つのレシピでビールを試作するには3週間から1カ月の期間がかかるため、最終的に新レシピの内容が決まるまでには時間がかかるという。
レシピの考案にAIを用いることで開発期間を短縮する。さらに、熟練の商品開発技術者でも考案できなかったようなレシピ案を新たに生み出すことも狙いだという。
レシピ探索機能は、味の成分値や制約条件を入力すると、AIが10個ほどのレシピを提案する。成分値はアルコール度数やpH値などで、制約条件には原材料の種類などがある。
システムがレシピとして示すのは原材料、醸造条件、機器条件などだ。麦芽や酵母などの原材料として何をどれだけ使うか、発酵温度や熟成期間はどうするか、麦汁を作る際のかまの温度をどうするかといったことだ。例えば発酵温度によって、ビールの香りが変わるという。