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 近年、人工知能(AI)の実用化が進み、多くのAIベンチャーが台頭している。その中でも、大手のシステムインテグレーター(SIer)や製造業などとの相次ぐ協業で注目を集めているのが、音声認識AIを手掛けるフェアリーデバイセズだ。2017年にTISとスマートスピーカーの分野で協業。2019年にダイキン工業、2021年8月には日鉄ソリューションズ(NSSOL)とウエアラブル機器の分野で協業した。

 TISとは、施設案内や会議内容の記録(文字起こし)などに利用するスマートスピーカーで協業している。ダイキン工業やNSSOLとの協業では、設備保全など現場業務のデジタル化に向けて首かけ型のウエアラブル機器を利用している。これらは、いずれもフェアリーデバイセズが開発したクラウド連携型の音声認識デバイスだ。

 フェアリーデバイセズは、同社代表取締役CEO(Chief Executive Officer)/CTO(Chief Technology Officer)の藤野真人氏が東京大学発のベンチャー企業として2007年に創業した。もともとは大手企業からの委託を受けてマンマシンインターフェースなどを研究していたが、これらの成果を基に音声認識AIの開発を手掛けてきた。2018年から本格的に自社サービスの事業を開始した。

ソフト開発からハード設計まで幅広くカバー

 大手がこぞってフェアリーデバイセズと協業する理由の1つは、同社が自社で開発した音声認識関連の技術をソフトウエアからハードウエアまで包括的に有していることだ。受託研究の時代から培った技術を基に、音声認識や話者識別、感情認識といった各種のエンジンや、これらをクラウドで提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)、騒音下で認識率を高めるための信号処理、組み込みソフトウエア開発、ハードウエアの設計に至るまで幅広くカバーする。同社の社員数は40人前後で、それぞれの領域に精通したエンジニアがそろっているという。

フェアリーデバイセズはソフトウエアからハードウエアまで包括的にカバーしている。理由を「サービスの精度を高めるため」と説明する
フェアリーデバイセズはソフトウエアからハードウエアまで包括的にカバーしている。理由を「サービスの精度を高めるため」と説明する
(出所:フェアリーデバイセズ)
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 ソフトウエアからハードウエアまでを包括的に手掛けるのには、音声認識AIの精度を高める狙いがある。どんなに高性能な認識エンジンでも、「マイクやカメラなどのセンサーから得られるデータの質が悪ければ認識の精度は上がらない」(フェアリーデバイセズ執行役員Chief Operating Officerの久池井淳氏)。だからこそ、アプリケーションや認識エンジンといったソフトウエアだけでなく、センサーを含めたハードウエアも自前で開発・改良できる体制を整えた。

 同社がハードウエアを含めた製品として、最初に事業化したのがスマートスピーカー「Tumbler」だ。16個のマイクを備えるスピーカーで、クラウド連携による音声認識や話者識別、機械翻訳などの機能などを備える。機械翻訳による接客業務などへの利用を見込んでいたため、インバウンド需要の消失という想定外はあったものの「底堅い需要が続いている」(久池井氏)という。