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 新型コロナウイルスのワクチン接種状況をリアルタイムで把握する「ワクチン接種記録システム(VRS)」で、個人の接種記録が失われているケースがあることが日経クロステックの取材で分かった。タブレット端末の内蔵カメラを用いて接種券の情報を読み取る際の誤読や誤入力が主な原因だ。VRSの運用を担当するデジタル庁はVRSにデータ修正(クレンジング)の新機能を実装して対処したものの、修正しきれないデータ欠損や誤データも多いとみられる。

 デジタル庁はVRSで管理する個人の接種記録を接種状況の確認だけでなく、年内をめどに導入するワクチン接種証明書の電子申請・電子交付などに活用する計画だ。しかしタブレット端末による誤読や誤入力で誤った接種記録がVRSに登録された場合、ワクチン接種証明書の電子交付ができない恐れがある。

数%が誤データの可能性

 ワクチン未接種なのに記録は「接種済み」――。

 ある自治体では、接種会場でこんなことが起こっている。自治体の接種会場を予約した住民の接種記録をVRSで確認すると、1回も接種していないにもかかわらず、別の接種場所でモデルナ製ワクチンを接種済みとなっていたのだ。VRSで他人の接種記録が誤って別の住民の接種記録として入力されていた。

 誤った接種記録が確認された接種場所では、約6200人がワクチンを接種していた。同様に別の接種会場に住民が訪れるなどして接種記録の誤りが判明したのは既に約50人に上るという。「こうした誤入力が全体の数%は存在するのではないか」と同自治体のワクチン担当者は明かす。

 このケースのように接種会場などで接種記録の誤りが判明すれば、現場が確認して接種記録を再入力すれば対処できる。だが、VRSのデータを参照する機会がなければ判明せず、誤ったデータが残ったままになってしまう。

 2021年9月中旬時点で住民の約7割が接種済みの別の自治体ではVRSのデータを精査したところ、「存在しない住民の接種記録」「2回目接種のみが登録されて1回目接種がない接種記録」など誤った接種記録が全体の約1%あった。職域接種など自治体外接種の誤入力が多かったという。その他の誤りの可能性(推計)を踏まえると、数%が誤データの可能性があるとする。

デジタル庁は新機能の実装で対処

 VRSのデータ欠損や誤データは、ワクチン接種証明書の発行にも影響する。2021年7月末に始まった海外渡航用のワクチン接種証明書発行では、住民が接種済証または接種記録書を提出する必要がある。自治体の窓口担当者が接種済証などでVRSの登録データを照会して証明書を発行するためだ。仮にVRSに登録がなかったとしても、接種済証などで確認してVRSのデータを補正する事務フローになっている。

 一方、2021年内にも始まるワクチン接種証明書の電子発行・電子交付では、スマホアプリとマイナンバーカードを使って申請・取得する。個人の接種記録はVRSでマイナンバーとひも付けて記録されているため、申請するとVRSの接種情報を基にスマホアプリに2次元コード付き証明書を交付するフローを想定している。仮にVRSに接種記録が正しく登録されていなかった場合、アプリ上での交付を完結できない。自治体の窓口担当者が接種済証などを確認して補正するフローが必要となる。

 そこで、デジタル庁は2021年9月22日からVRSにデータクレンジングのための新機能を実装。自治体に対し、定期的なデータの確認と修正を依頼した。

 自治体は同機能を使えば、1回目接種と2回目接種の日付が逆になっているなどの「確実に間違っているデータ」と、1回目接種と2回目接種でワクチンの種類が異なるなど「間違っている可能性があるデータ」を自動的に洗い出して一括出力できる。自治体担当者が定期的にデータを確認して誤りを修正することでクレンジングを進める。これまでは自治体の予防接種台帳に入力するためのデータ出力機能しかなく、自治体からはクレンジングしやすいデータ出力機能を搭載するよう要望が出ていた。