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 三菱電機が製品開発で不正を行っていたことが日経クロステックの調べで明らかになった。業務用エアコンで性能を偽った製品を開発し、長年販売していた疑いがある。同社ではこれまで多くの検査不正が明らかになっているものの、性能不正については1件を除いて認めていなかった*1。業務用エアコンという主力製品の性能不正が判明したことで、賠償問題に発展する可能性もゼロではない。同社の内情に詳しい複数の関係者(以下、関係者)からの情報に基づく。

三菱電機の業務用エアコンで性能不正が発覚
三菱電機の業務用エアコンで性能不正が発覚
オフィスビルなどに設置する天井埋め込み型室内機で騒音値を低く抑えた製品を開発。10年以上生産して販売を続けていた。(イラスト:穐山 里実)
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 性能不正があったと疑われる製品は、三菱電機が「シティマルチ」のブランドで展開する、オフィスビルなどに設置する天井埋め込み型室内機。同ブランドの「VMM」シリーズのうち、冷房能力が11.2kWの「PEFY-P100VMM-E」と14.0kWの「同-P125VMM-E」、16.0kWの「同-P140VMM-E」(以下、P140VMM)の3機種で、騒音性能の最大値を実際よりも低く見せていた。これらは欧州市場向けに英国で生産されたもので、販売期間は「2004~11年」(同社)という。

 三菱電機はVMMシリーズを中国でも展開(「同-P125VMM-E-S」のように末尾に「-S」が付く)しており、販売期間は「05~14年」(同社)だ。従って、同社は10年もの間、騒音性能を低く抑えた製品を販売し続けていたことになる。さらに言えば、これらの製品の騒音値は、「00~04年」(同社)に欧州で販売されたモデル「同-P100VMM-A」「同-P125VMM-A」「同-P140VMM-A」と同じである。これらを含めると、三菱電機による性能不正品の販売期間は14年に伸びる。

*1 2020年10月に発覚した、車載オーディオ機器用ラジオ受信機に関する設計不正。欧州無線機器指令(欧州RE指令)に対して不適合であるにもかかわらず、適合したと偽って顧客に製品を販売していた。欧州地域でAMラジオを受信した際に音声にノイズが混入する可能性がある。

騒音性能を偽った動機

 天井埋め込み型室内機における騒音性能は、省エネ性能の指標であるCOP(エネルギー消費効率)と並ぶセールスポイントとなっている。顧客となるゼネコンは、オフィスビルの天井をできる限り高く設計したい。そのため、薄い(高さが低い)タイプの天井埋め込み型室内機を望むが、室内機は薄型に設計するほど小さなファンを使う必要があり、その分、騒音が大きくなる。そこで空調機業界では、薄型でありながら小さい騒音の製品を目指した開発競争が続いている。

 こうした背景から、騒音の最大値の低い製品に対する顧客ニーズが高いことを三菱電機は把握しており、これが騒音性能の最大値を実際よりも低く見せた動機になったとみられる。

 現在、不正問題の渦中にある同社だが、性能不正の発覚は大きな痛手だ。これまで同社は、不正を行ったのはあくまでも検査だけであり、製品の性能についてはきちんと確保できていると主張してきた(先述の通り1件を除く)。事実、鉄道車両向け空調装置の検査不正の発覚を受けて21年7月2日に同社が開いた会見では、「不正検査があったことは重大な責任と感じている。性能面で所定の性能を出していることをきっちりと説明していくことが大事」(同社常務執行役社会システム事業本部長の福嶋秀樹氏)と、性能面で不正のないことを強調した。

 ところが、性能不正となるとそうした“言い訳”は通用しない。カタログ値や顧客への説明で虚偽があった製品を買わされたと分かれば、賠償を求める顧客が出てきてもおかしくない。生産自体は14年に終了している製品だが、業務用エアコンの使用可能年数を考えると、市場において大量の製品が現役で使われている可能性はある。「ゼネコンには製品に対する要求が特に厳しい顧客が多い。払い戻しや新モデルへの無償交換、あるいは次に購入する製品の値引きなど、さまざまな形で賠償を求めるのではないか」(関係者)。

 性能不正品について、三菱電機は価格も販売台数も明かしていない*2。だが、後述するVMMシリーズの後継機種である「VMA」シリーズの希望小売価格は、室内機だけで約40万円で、室外機を合わせると120万~150万円程度となっている(共に同じ冷房能力、すなわち11.2~16.0kWの場合)。ただし、海外での価格は日本よりも高い。また、生産台数については性能不正品に絞った数字は不明だが、「VMMシリーズ全体で年間20万~30万台程度の規模になるはず」(関係者)という声もある。

 値の張る主力製品である上に、販売期間も10年を超えることから、賠償請求された場合は、その金額が大きく積み上がる可能性がある。同社は業務用エアコンの国内シェアで2位を堅持し、これまで高いブランドを築いてきた。だが、この性能不正で顧客の信頼を損ない、そのブランドを毀損するリスクもある。

 三菱電機による騒音性能の不正の中身を関係者の証言から明らかにしていく。

*2 価格については「国ごとに価格が違うため回答は控える」(三菱電機)。販売台数については「当社のマーケットポジションや販売機種構成が分かってしまうため回答は控える」と同社は言う。