業務用エアコンで騒音性能の不正が発覚した三菱電機。実は、同社の業務用エアコンには、企業倫理を問われかねないもう1つの「不都合な真実」が隠されている。省エネ性能の指標であるCOP(エネルギー消費効率)値の「かさ上げ」だ。
COPは、定められた温度条件における消費電力1kW当たりの空調能力(冷房能力または暖房能力)。COP値が大きいほど省エネ性能が高いことを意味する。電気代に直結するCOP値は、業務用エアコンにとって最大のセールスポイントだ。すなわち、COP値が大きいほど製品の競争力は高くなる。
この「COP値を実力値よりも高く見せる行為が三菱電機で横行していた」と、同社の内情に詳しい複数の関係者(以下、関係者)が明かした。少なくとも「2017年まではCOP値のかさ上げ行為があった」という関係者の証言が得られた。当然、販売済みの業務用エアコンは、今も多くの顧客が使用している。
同社のCOP値のかさ上げは違法行為ではない。だが、日本産業規格(以下、JIS規格)の許容値を、自社にとって都合良く利用しており、「良識のある開発現場の技術者からすると、明らかなインチキであり、改めるべきだと考えていた」(関係者)という。法令に背いてはいなくとも、顧客をだます行為であるという認識が、少なくとも開発現場の技術者の一部にはあったようだ。
実際、主要顧客であるゼネコンの空調設計者は、かねて業務用エアコンのCOPのカタログ値と実力値の差に困惑してきた。三菱電機のカタログ値を信じてオフィスビルなどの空調設計を行っても、正しいCOP値が得られないからだ。だが、「カタログ値を落としたくないため、三菱電機は応じなかった」(関係者)という。
顧客が困惑しているにもかかわらず、三菱電機が是正しなかったのはなぜか。その一因はJIS規格にある。
JIS規格の“隙”を巧妙に利用
COP値の計測方法は、JIS規格で定められている。JIS規格では計測時にばらつきがあることを考慮し、空調能力で10%、消費電力で5%の誤差を許容していた(2015年に空調能力で5%、消費電力で3%に改定)。
ところが、このJIS規格の許容値は、三菱電機の実力からすると甘すぎるというのだ。「空調能力も消費電力もこんなに大きくばらつかない。空調能力はせいぜい0.1~0.2%程度の誤差に収められる。消費電力も1%ずれることはまずない」と関係者は指摘する。
結論から言えば、三菱電機はJIS規格の許容値と自社の実力との差から得られる余裕を、COP値のかさ上げに利用していたと思われる。どういうことか。