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 「JAF(日本自動車連盟)のロードサービスのように、宇宙でのロードサービスをつくりたい」――。こんな目標を掲げる日本のベンチャーがある。軌道上サービスの実現や人工衛星開発に取り組むアストロスケールである。同社ゼネラルマネージャーの伊藤美樹氏は「2030年までに、スペースデブリ(宇宙ごみ)除去や人工衛星への宇宙での燃料補給といった軌道上サービスを常用化させたい」と目標を語る。

 アストロスケールは13年に創業し、20年10月までに累計210億円の資金を調達している。小型衛星を用いたスペースデブリ除去技術の開発を進め、サービス化に向けて技術実証を続けており、21年3月に技術実証用の小型衛星「ELSA-d」を打ち上げた。

振動試験中のELSA-dのフライトモデル
振動試験中のELSA-dのフライトモデル
(写真:アストロスケール)
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 スペースデブリ問題は世界中で深刻化してきている。背景には、民間でのロケット打ち上げや衛星サービスなどが急成長し、宇宙空間へ打ち上げられる数が急増していることが挙げられる。

 スペースデブリとは、切り離したロケットの一部や運用期間を終えた衛星、それらが破損などにより断片化したものである。欧州宇宙機関(ESA)が発表した21年9月20日時点のデータによれば、大きさが10cm以上のスペースデブリの数は約3万6500個、1~10cmの大きさであれば約100万個にもおよぶという。しかも、これらの物体が回転しながら秒速8kmの速さで移動しているため、単純に捕捉するのも困難だ。まさに道路上にいろいろな障害物が落ちているような状態なのかもしれない。

 スペースデブリは様々な問題を引き起こす。例えばデブリが衛星に衝突すれば、衛星が破損する可能性があるほか、ちょっとした破片が衛星の太陽電池パドルにぶつかっただけでも電力を喪失してその衛星の機能が失われてしまうかもしれない。実際、スペースデブリへの危機感が増したのは、衛星同士の衝突事故が起こったからだ。

 現在機能している衛星の数は約4700基あるが、今後10年でその数は10倍近くまで増加するという予測もある。スペースデブリが今後急増するのは確実で、そうなると宇宙産業成長の中核とみなされている地球低軌道での経済活動の阻害要因になる可能性がある。衝突を回避するための航行管制ルールや、運用を終了したロケット本体や衛星がデブリ化しないような仕組みの整備が急務になっている。

2021年9月20日時点のスペースデブリに関するデータ
2021年9月20日時点のスペースデブリに関するデータ
(出所:ESA)
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 もちろん、地上でのごみ処理に一定のルールが必要なように、デブリ対策においては国際ルールのようなものが必要になってくる。実は2007年に国際連合(国連)でスペースデブリ低減ガイドラインが採択されたものの、その後のルール整備の議論はなかなか進展しなかった。それが、近年になってようやく動きを見せ始めたのだ。

 例えば19年6月に国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)本委員会において「宇宙活動に関する長期持続可能性(LTS)ガイドライン」が加盟国92カ国の全会一致により採択された。「92カ国が全会一致したのは非常に画期的なことだ」(伊藤氏)。

 21年6月には主要7カ国(G7)首脳会議でスペースデブリ対策を含む共同声明が発表された。「まだ罰則が無いソフトローで自主的な取り組みに依存しているが、各国の政策レベルで動き出していて、具体的な活動に移りつつあるフェーズになっている」(伊藤氏)。

国際的なリーダーシップを取る岡田CEO

 こうした流れの中で、デブリ対策のコミュニティーでリーダーシップを取ってルールメーキングに取り組んでいる人物がいる。アストロスケールの親会社であるアストロスケールホールディングス創業者兼CEOの岡田光信氏だ。日本の小型人工衛星開発の第一人者である東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の中須賀真一氏は、「岡田さんはすごい。世界の中で軌道上サービスの“顔”になりつつある。長期的に確実にビジネスにすることを考えて動いている」と高く評価する。

国際宇宙会議(IAC)2019で講演するアストロスケールホールディングス創業者兼CEOの岡田光信氏
国際宇宙会議(IAC)2019で講演するアストロスケールホールディングス創業者兼CEOの岡田光信氏
(写真:アストロスケール)
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 岡田氏はもともと“宇宙村”の出身ではなく、アストロスケール創業前はIT企業の経営者だった。IT業界に入る以前は、財務省(当時の大蔵省)や米コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーなどに勤務していた。

 宇宙業界に関心を持ったのは、高校1年生の頃に米NASA(航空宇宙局)の宇宙飛行士訓練プログラムに参加し、毛利衛宇宙飛行士からメッセージをもらったのがきっかけだったという。13年に宇宙ごみに関する欧州会議に出席後、アストロスケールの創業に至っている。

 アストロスケール創業以降は、多くの宇宙関連コミュニティーでスペースデブリ対策のロビー活動を続け、積極的に世界へアピールを続けてきた。こうした活動を背景に、同氏は現在、国際宇宙航行連盟(IAF)副会長や英国王立航空協会フェロー(FRAeS)、世界経済フォーラム(ダボス会議)宇宙評議会共同議長など、宇宙関連の重要なポストを兼務するまでとなった。

 中須賀氏は「スペースデブリ対策のような未開拓分野を切り開くのに、コミュニティーのボスになるのは非常に重要だ」と話す。「技術はあっても違うやり方が標準化したら意味が無い。長期的なビジネスを考えれば、コミュニティーの中でリーダーシップを取って、交渉の中心で“この指とまれ”の指を出す人にならないといけない」と話す。

 もちろん、交渉力が高いだけではビジネスは成立しない。高い技術力を示してこそ、発言の説得力が増す。これまでアストロスケールは宇宙での技術実証を続け、技術力を高めてきた。