「プロジェクトを引き受けた当時、義足のモニターとして2~3カ月に1回くらい意見を述べるくらいのつもりでいた。そしたら、ここまで大事になってしまった」(乙武洋匡氏)(図1)。
ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は2018年から、生まれつき手足がほぼない乙武洋匡氏と協力し、同氏がロボット義足を装着した状態で歩くことを目指す「OTOTAKE PROJECT(オトタケ・プロジェクト)」に取り組んできた(図2)。同社はプロジェクトの成果を21年9月28日に日本科学未来館(東京・江東)で発表。乙武氏が歩行する姿を報道関係者に披露した。
乙武氏が歩行したのは、日本科学未来館3階である(図3、4)。ロボット義足「SHOEBILL」を装着し、有機ELパネルの地球儀型ディスプレー「ジオ・コスモス」を目指すように展示物を横切って進んだ。事前の連絡では歩行距離の目標を50mとしていたものの、同氏は目標地点を越えて通路の終点部まで歩行。最終的に65m以上の歩行距離となった。同氏は挑戦を終えても「まだ歩く余力があった」と話した。
ロボット義足の強みは「適応性」と「柔軟性」
「ロボット義足のメリットは適応性と柔軟性」。ロボット義足の開発で中心的な役割を担ったソニーCSLリサーチャーの遠藤謙氏は、ロボット義足の強みをこう語る。具体的には「転倒時にロボット義足の膝が能動的に伸びてくれる(適応性)」「リハビリテーションの過程で、利用者の状態に合わせてロボット義足の動きを変えられる(柔軟性)」というメリットを挙げる。
特に同プロジェクトにおいては「柔軟性」が重要になった。「健常者の歩行を模倣したパラメーターを義足に適用した。ただ歩行経験がない乙武氏が歩行するには、それだと不十分だった。そこで乙武氏の歩行の習熟度に合わせて調整を加えた」(同氏)。
さらに「軽量化」にもこだわった。人間は筋肉の収縮を利用して足を動かしている。一方で、ロボット義足はその動きを代替するためにモーターを搭載している。ただ一般的に人間と同等の力をモーターで出力しようとするとモーターが大きく重くなるため、義足の利用者が動きにくくなってしまう。そこで小さく軽いモーターになるように工夫。モーター部の質量は1.2kgになるようにした。