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ニッケルと銅の積層チップ

 凝縮系核反応は、かつて「常温核融合(Cold Fusion)」と呼ばれた。1989年に米ユタ大学の研究者がこの現象を発表し、世界的に脚光を浴びた。この報告を受け、各国が一斉に追試を行った結果、日本も含めた主要研究機関が否定的な見解を発表した。

 ユタ大の報告は、パラジウム電極を重水に浸して電気を流したところ、化学反応では説明できない過剰熱が観測されたというものだった。だが、多くの研究者による追試では、現象自体の再現性に乏しく、「似非(えせ)科学」とさえ見られるようになった。

 しかし、一部の研究者が地道に研究を続け、電極方式のほか、パラジウム・ナノ粒子への重水素吸蔵に伴う発熱、重水素ガスのパラジウム薄膜透過に伴う核変換などの現象が報告され、徐々にこれらの現象の再現性が高まってきた。2010年頃から、米国やイタリア、イスラエルなどに、エネルギー利用を目的としたベンチャー企業が次々と生まれている。米国ではグーグルなどIT大手企業も参入している。

 クリーンプラネットは、2012年に設立したベンチャー企業で、2015年に東北大学と共同で設立した同大学電子光理学研究センター内「凝縮系核反応研究部門」と川崎市にある実験室を拠点に、量子水素エネルギーの実用化に取り組んでいる。東北大では三菱重工業在籍中に同分野で成果を上げた岩村康弘特任教授を中心に基礎研究を担い、川崎市の実験室では、実用化に向けた開発を続けている。発熱現象の再現性はすでに100%を確保しており、研究課題は定量的な再現性に移っている。

 こうした研究成果に着目し、2019年1月には三菱地所が、同年5月には三浦工業がクリーンプラネットに出資した。その後も、順調に実用化に向けて研究が進んできたため、今回、三浦工業と産業用ボイラーへの応用に関して共同開発を本格化させることになった。 2022年にはプロトタイプを製作し、2023年には製品化する予定という。

 クリーンプラネットの研究成果で注目すべきは、相対的にコストの安いニッケルと銅、軽水素を主体とした反応系での発熱で100%の再現性を確保している点だ。具体的には、14nm(ナノメートル)のニッケルと2nmの銅を多段に積層したチップ(発熱素子)を真空状態に置き、軽水素を封入して加熱すると投入エネルギーを超える熱が長期間にわたって放出される。この発熱量は化学反応では説明できない。

 チップ金属の結晶構造には、所々に格子欠陥があり、複数の水素原子が欠損部にはまり込むことで接近し、凝縮により原子核の融合に至り、その際、質量欠損分が熱として放出されると見られる(図2)。

図2●ニッケルと銅を積層した発熱素子
図2●ニッケルと銅を積層した発熱素子
(出所:日経BP)
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