全2254文字

 旭化成が人工知能(AI)などを応用して材料開発の効率を高めるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の人材育成を進めている。2021年までの3年間で630人のMI人材を育成する目標で、機械学習やPythonなどを学べる環境を「JupyterLab」などによって社内に構築した。

 MIは、新たな材料の候補となり得る膨大な数の分子構造や配合、混合条件の中から、有望そうなものを機械学習などによって絞り込む取り組みだ。従来の材料開発においては、研究員が経験と勘を基に材料の候補を絞り込み、その候補が材料としての機能性を有するか実験で検証して、新しい材料を生み出していた。

数年はかかる材料開発が半年に

 材料候補の絞り込みをMIによって短縮できれば、「事業競争力の強化やコスト削減、人間では考えつかない組み合わせの発見につながる革新性」(旭化成の河野禎市郎インフォマティクス推進センター長)が得られる可能性がある。実際に旭化成が低燃費タイヤ用の新規ポリマー材料の開発にMIを適用したところ、通常は数年かかる開発期間を半年程度に短縮できた。

 旭化成はMIの取り組みを全社的に推進する考えだ。そのために2018年から研究員に機械学習やデータ分析などMIに不可欠な技術を教える取り組みを始めた。さらに2019年から2021年の3年間でMI人材を630人育成する目標も設定した。同社におけるMI人材は育成の到達度に応じて3種類あり、初級MI人材を500人、中級を100人、上級を30人育成する。

 プログラミングの未経験者がPythonや機械学習に関する演習をオンラインで受講すると、初級MI人材となる。さらに材料開発に関する業務課題をMIによって解決する育成プログラムを受講すると、中級MI人材となる。実務の成果によってMIを使いこなせると判定されると上級MI人材だ。

中級MI人材の育成用システムを構築

 旭化成は中級以上のMI人材を育成するために、MIに必要なPythonの開発実行環境やソースコード、学習コンテンツなどを提供する教育システム「MI-Hub」を社内に構築した。学習に関する進捗報告や相談、受講者のサポートなどができる仕組みも備える。

MI-Hubのデモ画面
MI-Hubのデモ画面
(出所:旭化成)
[画像のクリックで拡大表示]

 MI-HubにはWebブラウザーから利用できるPythonのエディターであるJupyterLabを採用した。Amazon Web Services(AWS)で運用する。受講者はオフィスだけでなく自宅からでもMI-Hubを利用できる。

 受講者に提供する教育コンテンツとしては、データ可視化(ビジュアライゼーション)や画像解析、最適化などを学習できるチュートリアルを用意。受講者はJupyterLabにアクセスし、個人用フォルダーに必要なコードをコピーした上で、利用するデータや変数を操作してデータ解析を試す。

機械学習モデリングのコンテンツ例
機械学習モデリングのコンテンツ例
(出所:旭化成)
[画像のクリックで拡大表示]

 またMI-Hubには研究所単位のQ&Aチャットも用意した。受講者同士が学習内容について質問し合い、MIの活用法を共有する。現在、500名以上の社員がこのチャットを利用する。

研修後の実業務にもMI-Hubを活用

 河野インフォマティクス推進センター長は、MI-Hubに収録したコンテンツの特長について「材料開発の流れをベースにし、それぞれのコードを使う場面を明示した」と語る。研究員は研修を受講した後は、MI-Hubを実際の研究開発でも利用する。研究員がMIの実務でコードを使う場合も、MI-Hubで共有されているコードをコピーし、詳細のパラメーターを変更するだけでよい。MIの実務で使いやすい形で教育コンテンツを整備したわけだ。