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 「製品の設計者が自ら実施するシミュレーション計算の件数が増え、専任担当者と同じくらいになった」と語るのは、ナブテスコでシミュレーションを担当する同社技術本部ナブテスコR&DセンターCAEエンジニアリング部主席技師の阿部賢史氏。かつて多くの企業でCAEによるシミュレーション計算は、設計者からの依頼によって専任担当者が実行する体制が一般的だった。しかし、設計対象を熟知する設計者自身が計算を実施するほうが好ましいとかねて指摘されており、いよいよそれが現実となってきた。それに伴って、専任担当者の役割が計算実施から設計者への支援の提供へと変化してきている。

 カシオ計算機でシミュレーションを担当する、同社技術本部機構開発統轄部機構技術開発部機構技術開発室リーダーの遠藤将幸氏も、「設計者が少ない労力でシミュレーション計算を実行できるよう工夫している」と、計算実施以外の役割が増えていると話す

* 阿部氏と遠藤氏は、2021年7月にサイバネットシステムがオンラインで開催した「CAEユニバーシティ特別公開フォーラム2021」で講演しており、その内容を改めて公開した。

社内教育を強化

 設計者によるシミュレーション計算の実施が増えてきた背景には、計算結果に対する信頼度の向上がある。シミュレーション計算によって得られる強度などの数値は、かつては試作品などの実物による実験結果と異なるのが一般的だったが、最近は状況が大きく改善している。「現実に起こる現象全てを反映するシミュレーションはまだできないが、特定の条件を実験とシミュレーションでそれぞれ整えると、結果はかなり一致するようになっている」(ナブテスコの阿部氏)という。

 そこでナブテスコは、社内の設計者に向けてシミュレーション計算の研修(講習)を始めている()。基礎レベルの研修プログラムでは構造解析について、材料力学に基づいて理論解を計算できる例題についてシミュレーションを実施し、メッシュの細かさなどの条件を変えて計算結果がどのように変わるかを見ていく。その上で、現実の設計のように理論解が完全には得られない例題について学ぶ。応用レベルの研修プログラムでは、設計者が実際に手がける設計対象を題材にする。

表 社内向けのシミュレーション研修プログラムの体系
表 社内向けのシミュレーション研修プログラムの体系
社内へのシミュレーション普及を図る目的だが、社内で始まった新しい利用法の支援を目的とした「データサイエンス」などのメニューも含む。(出所:ナブテスコ)
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 新入社員向けにも研修プログラムを用意する他、2018年からは管理者に向けに「結果の見方」に特化した研修を実施。構造解析だけではなく、流体解析とシステム解析(1D-CAE)の研修プログラムも実施し、受講する設計者が増えつつある。実業務で油空圧製品などの設計者が、1D-CAEでシステム全体の挙動をシミュレーションする例が増えているという。

 今後は、シミュレーション計算を大量に実行して知見を得る上で必要になるデータサイエンスや、現在のシミュレーション技術ではどこまでできて何ができないかなどを見て全体像をつかむ研修プログラムも始める計画という。同社内の一部の案件で、数多くの設計案をシミュレーション計算で評価しようという動きが始まっていることへ対応する。