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 日産自動車はSUV(多目的スポーツ車)タイプの新型電気自動車(EV)「アリア」を量産する栃木工場(栃木県上三川町)の新ラインを2021年10月に公開した。極限まで生産の自動化を進めることで、競合他社のEV専用ラインに比べてコスト競争力を高めたという。

 「栃木工場の新ラインでは、車体の溶接工程や塗装工程については、ほぼ完全自動化を達成した。だが、他社と違うのは、組み立て工程を大幅に自動化したことだ」。新ラインに導入した生産技術コンセプト「ニッサンインテリジェントファクトリー(NIF)」を長年開発してきた同社常務執行役員 車両生産技術開発本部担当の平田禎治氏はこう話す。

日産常務執行役員 車両生産技術開発本部担当の平田禎治氏
日産常務執行役員 車両生産技術開発本部担当の平田禎治氏
(撮影:日経Automotive)
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 組み立て工程では、約3000個の部品を1つの生産ラインで組み付ける。「今はかなり部品数が減ったものの、人の技能に頼って組み付ける点では、基本的に『T型フォード』と変わらない。組み立て工程をどこまで自動化できるかが、生産性の鍵を握る」(同氏)という。

 さまざまな自動化技術を集結させることで、「組み立て工程の自動化率は栃木工場が日産の中で最も高くなった」(同氏)。自動化率の具体的な数字は明かさないが、「競合他社に比べて非常に高く、競争力がある」(同氏)とする。一方、「それでも、まだ100%にはほど遠い」(同氏)と、改善の余地もうかがわせる。

 新ラインで試作中のアリアは、間もなく量産に入る。アリアの量産だけでも、競合他社のEV専用ラインに比べて「コスト競争力は十分に高い」(同氏)という。しかし、本領を発揮するのは、ハイブリッド車(HEV)やエンジン車と混流生産したときになるだろう。新ラインは、異なるパワートレーンの車種を同一ラインで効率的に生産できることを最大の強みとするからだ。

栃木工場で量産する新型EV「アリア」
栃木工場で量産する新型EV「アリア」
(撮影:日経Automotive)
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 同社は30年代の早期に主要市場における新型車をすべて電動化する目標を掲げながらも、すぐにEV市場が立ち上がるとは考えていない。当面は独自のHEV技術「e-POWER」など、内燃機関を搭載する車種が稼ぎ頭とみる。新ラインでは、そうした車種を投入しても、追加投資が発生しにくい柔軟な生産方式を目指した。その考え方は、「かつての『日産生産方式(Nissan Production Way)』から脈々と受け継がれたものだ」(同氏)という。

 鍵となるのは、「パワートレイン一括搭載システム(SUMO)」と呼ぶ技術である。EV、HEV、エンジン車の各仕様に応じて、パワートレーンを構成する「フロント」「センター」「リア」の各部品モジュールを組み替えながら、車体に自動で組み付ける。部品モジュールは、あらかじめサブラインでパレット上に搭載しておき、メインラインの車種に応じてパレットを入れ替えることで、混流生産を実現する。現在はパレットへの部品搭載を人手で行っているが、将来的には「自動化が可能」(同氏)とする。

「パワートレイン一括搭載システム(SUMO)」
「パワートレイン一括搭載システム(SUMO)」
(撮影:日経Automotive)
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 こうした仕組みは、設計部門との連携によって、車種ごとに変わる部分(変動部)と、変わらない部分(固定部)を明確に分けたプラットフォーム戦略の成果ともいえる。その一方で、「生産設備の自動化には大変苦労した」(同氏)と話す。

 SUMOでは生産ラインを流れる車体に対し、下からパワートレーン部品を持ち上げて位置合わせを行い、多数のボルトで締結する。ボルトは0.1mmずれれば、かじり(焼き付き)が起きかねないため、組み付けるモノ同士の位置をリアルタイムで測定しながら、ズレが±0.05mm以内になるように位置を微修正している。

 計測や位置合わせのアルゴリズムは、「約10年前に追浜工場(神奈川県横須賀市)で開発に着手した」(同氏)。正しくボルト穴を見つける認識処理だけでも、車体の色や光の当たり方によって結果は変わってしまう。当時は画像認識やデータ処理といったシステムの性能も十分ではなかった。「ここ10年でシステムの性能が飛躍的に高まったことで、ようやく量産ラインで使えるようになった」(同氏)という。

追浜ではなく栃木だった理由とは?

 新技術を追浜工場ではなく栃木工場に入れた経緯については、「タイミング的な事情が大きかった」(同氏)と話す。EV「リーフ」をはじめ、「世界初の技術は追浜から」というのが、これまでの常識だった。追浜工場は神奈川県厚木市にある研究開発部門とも近く、工場の敷地内に総合研究所も一部含むことから、新技術を導入しやすい。

 一方、栃木工場は設備が老朽化しており、数年前から稼働率が低迷していた。2本ある生産ラインのうち、生産を第1ラインに集約したタイミングで、残る第2ラインの生産設備を大幅に入れ替えて実現したのが、今回の新ラインである。投資金額は330億円。塗装工程に関しては、完全に更地にしてから建て替えた。こうした大掛かりな改修は、「稼働率の高い工場では極めて難しい」(同氏)という。稼働率の低迷という危機をうまく生かして工場を再生した。

塗装工程を完全自動化
塗装工程を完全自動化
(撮影:日経Automotive)
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塗装後の外観検査も自動化した
塗装後の外観検査も自動化した
(撮影:日経Automotive)
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