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2020年10月20日16時40分ごろ、旭化成のグループ会社である旭化成マイクロシステム(東京・千代田)の生産センター第二製造部半導体工場(宮崎県延岡市)で火災事故が発生した。同社の親会社である旭化成エレクトロニクスらが事故の原因などを調査した結果、発火点と推測される装置が仕様書と異なり難燃材が使われておらず、延焼の要因となった可能性が高いと分かった。

 旭化成マイクロシステムの生産センター第二製造部半導体工場は、約92時間にわたる火災によって建屋構造物や装置、関連設備などが激しく焼損。そのため火災発生点や発生の原因などの特定には至らなかった。

発災後の半導体製造工場の航空写真
発災後の半導体製造工場の航空写真
火災によって5階屋根が崩落している。(出所:旭化成・旭化成エレクトロニクス)
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 しかし、火災発生時の目撃証言や各種装置の運転状況などを検証し、報告書では火災発生点やその原因、延焼の経緯などについて以下のように推定している。

火災発生から延焼までの推定シナリオ
火災発生から延焼までの推定シナリオ
(報告書を基に日経ものづくりが作成)
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 出火を確認した4人の従業員の目撃証言から、火災が発生したのは製造棟4階クリーンルーム内の西側、半導体ウエハー製造エリア。発火したのは、同エリアにあった未反応チタン除去装置「スプレー式酸・アルカリ洗浄装置」だと考えられる。同装置の端子部の接触不良や半断線によって発熱・発火し、ポリプロピレン(PP)製のきょう体部材に延焼。クリーンルーム内を循環させていた気流によって、防火区画内で急速に温度が上昇し、クリーンルームにあった可燃物に引火して、被害が拡大したとの可能性を示した。

類似装置を用いて実証

 未反応チタン除去装置とは、製造棟で実施していたウエハー製造工程で、金属とシリコン(Si)の合金化層(シリサイド)を形成する工程で使うもの。一部の製品では、シリサイドの金属にチタンを使用しており、その最終段階で未反応チタン除去装置を使用していた。報告書によると4人の従業員は、製造棟4階クリーンルーム内の西側、メンテナンスエリアにあった未反応チタン除去装置の上部から出火していたのを目撃していた。

 そこで調査委員会は未反応チタン除去装置から出火したと想定し、出火の要因を調べた。

 調査委員会が着目したのは、熱源と電気系統以外で考えられる同装置内での出火原因である。というのも、放火などの外的要因やたばこなどの火気の持ち込みは原因として考えにくいうえに、同装置に熱源があるとはいえ、火災を引き起こすような高温に至るものではなかったからだ*1。同装置は反応チタンを薬液*2で除去する装置なので火を使用したり、火災が発生するような高温状態にしたりする運転条件はなかったのである。

*1 不審者による放火など外的要因の可能性は低い。未反応チタン除去装置の処理機構に火気を取り扱うプロセスはなく、クリーンルームという高い清浄度を要求される施設の特性上、たばこなど火気が持ち込まれた可能性も低い。同装置はシンナーや薬液IPA(イソプロピルアルコール)などを取り扱うが、出火前の配管や供給装置の記録からは異常は認められなかった。
*2 使用する薬液は水酸化アンモニウム(NH4OH:濃度4.5%)と過酸化水素(H2O2:濃度6.0%)の混合水溶液で可燃性や引火性はない。

 では、装置内に他の出火要因はないのか。製造棟内の未反応チタン除去装置は焼損が激しかったことから、調査委員会は、製造年が同じ類似装置を用いて、その仕様書や図面、実機を確認し、考えられる出火原因を抽出。電源制御部やヒーター温度センサーなどについて、火災に対する安全機構の有無や使用電圧、可燃物との距離、電装部材の燃焼試験結果などについて検証した。

 その結果、出火原因としては2つのケースが考えられるとの結論に至った。1つは、未反応チタン除去装置が搭載しているN2ヒーターとタンクヒーターに付属する電源コード端子部のカシメ部の接合不足、もしくは端子金属の腐食によって接触抵抗が増加し、高温状態で劣化が進んで発火温度に達して発火する可能性が考えられた。

 もう1つは、長期間の振動によってN2/タンクヒーターまたはモーター電源コードの一部が半断線(または端子緩み)状態となって発熱。コード被覆または端子台樹脂の発火温度に達して発火した可能性だ。

 その上で、ケーブルや基板など電装部材の周囲に火炎があるような高温状態で発火するか否か、発火した場合に熱源がなくなれば消火するか否かを確認する燃焼試験を実施した。

 その結果、ヒーター端子やモーターケーブル、ヒーターケーブルなどは火炎を近づけると発火し、火炎がなくなっても残炎すると判明。ケーブルや基板などの電装部材が発火した場合、近くにある樹脂に延焼するケースが想定されると分かった。